泳ぐための特訓 四日目にして、なぜ泳げないかが分かったと怜は告げた。理由はすぐ、そこにあったという。
怜が言うには、渚が貸したブーメラン水着が悪いといい、流体力学的に自分の身体には合わなかったのが原因だそうだ。
形から入る典型的なタイプの怜に付き合い、翌日に水着を買いに行くことになった。


「で、なんで水着買いに行くために…あまちゃん先生は着いて来てくれなかったんだ」


天方先生が一緒じゃない為、遙や樹たちは大型のスポーツショップへ向かうために電車に乗っていた。真琴の言葉に、息を吐いて樹が口にする。

「そうだよね。水着のこと、色々と聞けると思ったのに」
「あの?あまちゃん先生って、東京で水着メーカーのOLしていたんですよね」
「それが、お願いしたんだけど」

渚がいうには「えぇっと、日曜日はちょっと別件が!それにほら、各メーカーごとの色んな事情的なこととか…公平の目で選べないっていうか…」と言われ、天方先生に断れてしまったそうだ。

「その曖昧極まりない言い回しは、何なんですか?」

怜が言うように、確かに断った理由が曖昧だ。何か事情があるのだろうと樹が そんなこと考えていれば、目的地となるスポーツショップに着いていた。


「へえ、今はこういうのが流行りか」


久し振りに見た競泳水着。最近のスパッツタイプのものは、太腿を少し圧迫するデザインとなっていて、それにより瞬発力を高めるなどと書かれている。
日々、進化しているだなっと思っていれば、真琴から声が掛かる。

「樹ちゃん、ハルと怜が水着の試着するって」

「あーわかったー!今行くー!って、あれ?……ハルも?」

試着室に向かえば、ちょうど怜が着替えを終えて真琴と渚に見せているところだった。
樹は、どうしようかと悩み足を止めてしまう。なぜなら、怜が奇抜とも言ってもいいぐらいな光り輝く レインボーの踝まである競泳水着を着ていたからだ。
隣の試着室では、遙も着替え終わったといいカーテンを開ける。スタイリッシュなデザインに紫色のライン。
正直、遙が持っているものとの変わりは分からない。真琴と渚の二人が眉間に雛を寄せていれば、樹が口を開く。

「いつものと同じだよね?」
「樹、違う。締め付け感がいい」

遙しか分からない理由に、返答が見つからない。渚は真琴の背中を押して、自分たちも着替えようと言いだしてしまう。
遙は他に持って来ている水着があるため、再度着替えようと試着室のカーテンを閉める。
始まってしまった、水着ファッションショーとでもいうように渚、真琴も着替えてカーテンを開く。目の前のベンチでは、江が頬赤らめて嬉しそうに見つめていた。

「樹、これと同じメーカーのがもう一つあるんだけど持って来てくれないか?」
「ん?いいよー」

遙に試着前の水着を渡され、メーカーと品番を確認して分かったと言って、再度水着を返した。


 * * *


水着の多さに、少し時間が掛かってしまい、やっと見つけた水着を手にして試着室の方へと足を進めればベンチに居たはずの江がいない。
樹は置いて行かれたかと頭に過ったが、ちょうど遙が着替え終わってカーテンを開けたのを見てホッとする。

「ハル…‥っ」

樹は探すのが手間取ったことを遙へと声を上げようと思ったが、その隣の試着室から現れた凛を見て言うのを止めた。合同練習以来の凛だ。
二人とも、お互いがこの場所にいることに驚いていたが凛が口にする。


「ちょうどいい、ちょっとツラ貸せっ」


幸い、遙と凛はこちらのことに気付いていなようで樹は、二人のあとを追うことを決めた。
駐車場裏へと遙を連れていき、凛は重い口を開いた。今の遙ではなく、本気になった遙と勝負がしたいと。

「じゃねぇっと、俺が前に進めねえ」

遙は面倒くさいと口にし背中を向けて、店へと戻ろうとしてしまう。自分はフリーしか泳がない、凛のために泳ぐ訳じゃないと。凛は遙の背中を追いかけ、フェンスへと体を押し付ける。
フェンスが音を立てながら、大きく揺れた。

「いや、お前は俺のために泳ぐんだ」
「だったら、一つ約束をしろ!俺に負けても水泳を辞めるとか言うな、醜態をさらすな、負けても泣くな!」

掴みかかった腕を逆に遙に掴まれ、凛は告げられてしまう。その腕を、凛は思いっきり振り解けば自分はあの頃とは違うという。今度こそ、はっきりと見せてやると。


「県大会までに、身体を造っておけ!そこで勝負だ!」


大会で会おうと告げた凛は、店とは反対側の方向へと歩き出した。それは、樹が立ち聞きをしている方向だった。


「ハロー凛!」

「樹、なんで?」

「合同練習のときにさ、私に話あるって言ってたでしょ」

いきなり現れた樹に凛は吃驚をして、また先程までの遙との話を聞かれたことに、少し顔を歪ませた。だがそれも一瞬のことで、樹の言葉に、思い出したように口を開いた。

「お前が水泳部のマネージャーっつうのは、どういうことなんだ?」
「まんまの意味だよ?」
「いや、わかんねーよ。そもそも、お前は泳がないのか?」
「…‥あー、やっぱりそれか……。んー、泳げないんだよ」
「は?どーいうことだ、そりゃあ」
「もう一回、泳ぐためにマネージャーやってんの。そんだけだよ!」

樹は、戻らないと皆が心配するからと告げて店へと向かうために凛の横を通り過ぎた。数歩、歩いて言い忘れてたかのように立ち止り「あ!」と口にしながら 樹は振り向く。

「じゃあね!次は泣いちゃだめだよー、凛!」

「おい、樹!っ」

凛は樹の手を掴まえて、そのまま捉まえたかったが、自分の拳を強く握りしめていた。あいつを抱きしめるのは、今じゃない――。



「本気のあいつに、勝ってからだ」



“辿り着かない想いを”




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