「あー!!イツキちゃん、いいところにー!!」

休み時間、職員室に課題のプリントを提出をして、教室へと戻るために廊下を歩いていれば後ろから名前を呼ばれる。
声で分かるが、振り向けば怜の腕を引っ張る渚がそこにいた。怜は少し困り顔をしている。ぐいぐいと渚が二年の教室がある3階まで引っ張って来たんだろう。

「こんにちは、怜くん」
「お疲れ様です。樹先輩」
「そんな、堅苦しくしなくても大丈夫だよ?」

律義な挨拶を返してくれた怜に樹が言えば、渚がその隣でそうそうと大きく頷く。渚は少し、年上に敬意を持つべきだと思うが、言うのは止めておこう。


「イツキちゃんも、ハルちゃんとマコちゃんのとこ行かない?僕、いいこと考えちゃったんだーーー!」


樹は渚のクリクリとした目が、より輝いて見えて、これが女の子だったら飛び付きたくなる衝動になっていたなと、自分の中で苦笑いをした。
隣の教室であること、何かしらの予定もないので、その二人に同行をすることにした。

「ハルちゃん!マコちゃん!やっほー!」
「ん?」
「あれ、樹もいるな」
「ホントだ」

渚は手にしていた雑誌を、遙と真琴の前に雑誌を広げて 見て見てと口にする。目に飛び込んできたのは、オリジナルのデザイン指定が出来るジャージ作成に関するものだった。
折角、水泳部を作ったからジャージもお揃いにしたいと渚は告げる。同意するように真琴も、本格的に動き出した気がすると口にした。

「部活専用のジャージっていいかもね!チームジャージで!」
「イツキちゃんも、そう思うでしょ!あ、デザインはこのタイプ、色はコレであと校章の他に、イラストとかも入れられるんだって!」

真琴の席に置いた、雑誌の説明を渚がすれば、その言葉に怜がハッとする。

「まさか君、岩鳶ちゃんを!?」
「入れるつもりだよ」

目頭を手のひらで押さえるように、怜はあれは美しくないと口にした。そこは、怜と同感で私も遠慮をしたい。

「鮫柄学園のは、鮫と刀をモチーフにしたっけ」
「あれカッコいいよね!ウチのも対抗してリアル岩鳶ちゃんにしようよ!ね、ハルちゃん」
「待って、待って!リアル岩鳶ちゃんは止めようよ!高校名が岩鳶だからって、そこまで固執しなくても」

思い出したように真琴が告げ、渚も岩鳶ちゃんをリアルにしようと口にする。
樹は 渚の案を止めようと口にするが、遙がスケッチブックにしゃかしゃかと描き出したものを見せてきた。
遙が描いたものは本当にリアルな岩鳶ちゃんで、それを見て真琴は眉を顰めるが怜は美しいと告げていた。


「お揃いのジャージは、一旦置いといて…‥‥これ!っ」


部活の前に、渚が江へとジャージが作れる雑誌を見せるがそのまま放り投げられてしまう。
今はジャージではなくというように、手にしていた紙を高く掲げ、遙たちに見てもらうために腕を伸ばすように差し出した。

「新しい、練習メニュー?」
「そうです!怜くんが泳げないということを踏まえて 樹先輩に相談しつつ、新たに組み直して来ました」
「樹ちゃん!?いつの間に」
「ほとんどのことを江がやっちゃうから、まー、これぐらいはねっ」

コソッと耳打ちをされるように真琴から言われた言葉に、このぐらいは手伝わないっと笑いながら樹が返す。
本当に江が、何でもやってしまう敏腕マネージャーなのだ。現に県大会までのスケジュール調整も行なっている。

「怜くん!」
「な、なんですか!?」
「県大会を出場することから逆算して、遅くともあと一週間で泳げるようになって貰います!」

スケジュール手帳を見てから日数を確認して、江は怜に告げた。

「一週間!?アハハハハ、理論的に無理ですよ」
「笑ってる場合じゃない!!そうじゃないと、この練習メニューはこなせないの!」

怜のために、組み直したものは実は第1弾のもの。
一応、怜は半分のセットで調整をしているが、いずれは遙や真琴、渚と同じようになってもらいと言うのが樹と江の狙いではあった。
今日から一週間、怜の特訓の日々が始まった。江は“あと七日!”と習字で書いた目標ともいえる紙をプールサイドの柵に掲げて、腕を組んで怜を見守る。


「怜くんって、力み過ぎなんじゃ…?」


渚から平泳ぎ、ブレの練習を教えて貰うが、手かき足掻きは出来ているのに水の中へと、そのままの形で怜は沈んでいってしまった。それを見て、樹が呟いていた。



“期限まであと七日間”




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