合同練習を終えた翌日、遙を含めた私たちはまたグランドにいて、ベンチに座っている。
もちろん陸上部の竜ヶ崎怜を見るためだ。そのことに真琴は、遙の隣に座る渚へと声を掛ける。

「まーだ、諦めないのか?」

「もちろん!でも、なんか、レイちゃん…スッキリした顔しているよね」

次々と部員が走り出しては、跳んでいく。陸上部、部長に怜が名前を呼ばれポールを掲げ走る準備に入った。
理論じゃない、計算じゃない、もっと自由に。怜は、それだけを思って走り出す。
強く踏み込みポールが大きくしなる。一気にバーを跳び越える動作に入った。っが、その流れに見ていたものは全員、目を疑ってしまう。

「えぇーーーー!!?」

それを見た、渚や真琴、江までもが声を上げる。遙も同様に驚き、口を開けている状態だ。そして、樹もだ。
怜が、背中からバーを越える背面跳びではなく、両足を揃えて、バーを跳び越えた瞬間に両手両足を広げたのだ。手の平までも、空を仰ぐように開いて。


「落ちた…っ」


見事な開脚で跳んだかと思いきや、そのまま落ちてしまった。

「あー、折角の青空を…」
「(……樹ちゃん?)」
「でも、本当にスッキリした顔してるし、いっかーぁ」

横に座る樹の声に気付いた真琴は、樹の見ている方へと顔を向けた。
空を見上げる跳び方でなく、正面から理論とはかけ離れた跳び方でバーへと跳び込んだ 怜の顔は、本当に清々しい表情をしていた。
自分たちが座るベンチへと 怜が近付いて来ることを、渚が告げる。

「ん、こっちに来るよ」
「僕も、七瀬先輩みたいになりたい」
「どういう意味?」

遙の目の前で、立ち止まった怜に江は口にする。怜は、そのまま自分の想いを言葉にしようとした。

「あんな風に、自由に――」
「自由じゃない、フリー」
「フリー…、とにかく正式に水泳部に」

一度、自分の眼鏡の位置を直すように手をやり、怜は大きく息をすった。


「入れてください!!!!」


告げたと同時に頭を下げれば、江や渚は驚きの言葉を出す。遙は目を伏せて、怜の正面から顔を横へと逸らす。

「泳ぎたいやつは、泳げばいい」
「ハル、入部してくれること、嬉しいなら嬉しいと言えばいいのに」
「まあまあ、樹ちゃん。それじゃあ、決まりだね」
「ハルちゃん」

嬉しさに渚は、遙へと声を掛ければ「でも、」と告げた怜へと、遙に向けていた顔を元に戻した。

「一番最初に僕を誘ったのは君なんですから。ちゃんと責任取ってくださいよ、渚くん」

「はは、任せてといてーーー!!!!」

嬉しさで遙の腕を引っ張りながら、渚は怜へと駆け寄った。江も嬉しそうにその光景を見ている。

「あ、朝日奈先輩も見ていてください!!」

「え、私が……ですか?」

ベンチで座っていれば、ふいに怜に声を掛けられる。その横にいた、真琴がそれに疑問に思い 樹へと投げ掛けた。

「樹ちゃん、何か言ったの?」
「あー、ハルや真琴、渚がいればすぐに一緒に泳げるって言っただけだよ」
「んーそっか。でも、樹ちゃんもだよね?それっ?」
「何が?」
「俺たちと一緒に泳ぐことだよ。一緒にまた泳げるよ。だから、泳ごう」

樹は、そのまま身体の伸びをしながら空を見て真琴へと答えた。それは以前、言われて口に出来なかった言葉。


「そーだね、また泳ぎたい」


“飛び越えた気持ち”


声に出来なかった言葉を、樹はやっと口にした。


prev next

[top]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -