「はっ、くしゅん―…‥、」


縁側の景色を眺めるように、雑誌を手にし開き戸に寄り掛かるように座っていれば、くしゅんっと盛大な音が聞こえてくる。
聞こえた音というよりも声に 樹、真琴、渚は手にしていた雑誌や本から目を外し顔を向ける。居間のテーブルで雑誌を読んでいた遙が、突然出たクシャミに鼻元を手で押さえていた。

「盛大だねー」
「ハル、大丈夫?」
「ん、ひょっとして風邪?」

渚、真琴、樹が声を投げかけ、遙は鼻を擦って顔を上げた。真琴は遙にポケットティッシュを取り出して渡そうとする。


「死んだ ばあちゃんが言ってた、くしゃみするのは誰かが噂してるときだって」

「それ!きっとリンちゃんだよ!!」

「ハルのおばあちゃんじゃなくても、割とみんなが言ってるから。でも、ハルのそれは風邪でしょ?」

「樹ちゃんの言う通り、普通に風邪だよ。まだ四月なのにプールで泳いだりするから」


真琴の言葉にプールで風邪を引くほど軟じゃないと告げるが、あの日は快晴の良い天気だったが、少し肌寒かったのも事実。
当たり前だが、水の中では体感温度は違うので、まだ屋外だと寒いということだ。遙の再びのクシャミが、それを物語っていた。


「まぁ、屋外プールじゃ、泳ぐのまだ早いよ。それまでは、体力作りだね」
「あー ゴウちゃんから聞いたんだけど、リンちゃん!鮫柄水泳部に入ったんだって」
「えっ?」
「どうかしたの、マコちゃん?」


なんでもないよと返しつつ、これで大会でまた会えるよねと口にした真琴。その顔は、未だ嬉しそうで、八の字眉で目を細めている。
その顔を見て、樹は釣られるように笑みが零れてしまう。真琴が凛に、一緒に泳ごうと告げたことを知っているからだ。


「ん?樹ちゃん、さっきから笑ってるけど俺の顔に何か付いている?」

「特に、付いてませんよー」

「…そうだよ、出ようよ!大会!それでまた、リレー泳ごう!」

「俺はフリーしか泳がない」

「それって、リレーには出ないってこと?そんなこと、言わずにさあ、……ねえ、ねえ、ねえっ」


うんともすんとも言わない遙に、渚は自分の頭をつけてぐりぐりと擦り付ける様に体を揺さぶる。


「大体、リレーやるにも三人じゃ足りないだろ」
「確かに!」
「四人じゃなきゃ、リレー出来ないね」
「…ってことは、イツキちゃんが男装して!」
「普通に無理なの分かるよね?それに、凛と大会で会うなら男子!混合でもないからねっ!」


薄っすらと引き攣る笑顔を見せれば、渚は冗談だと口にする。確かに、泳げるものなら泳ぎたいけど…・・私には無理だ。


「ってことは、やっぱり、あと一人部員を見つけなきゃなんないこと!!?」


渚は立ち上がり、頭を抱えながら叫んでいた。


“あと、ひとり”



prev next

[top]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -