ハルたちがいなくなった次の年、不運な事故は起きた。
きっと普通ならあり得ない、それは本当に不運な。
足を滑らした子がプールに落ちたのだが、それが私の真上だった。一瞬の出来事で、どうしようもなかった。青かった空が黒に変わった――…‥

不幸中の幸い。ケガは大したことはなかったが、それと引き換えにトラウマが残った。水泳部を辞めたあと寄りつかなくなった遙は、それを知らない。



「俺、やっぱり…」

今日は水泳部としての承認祝いをするとのことで、プールサイドで乾杯をすると天方先生に告げられた。プールへと向かう途中、腕を掴まれ、足を止められる。
声で分かるが、私を引き止めたのはやはり真琴だった。

「真琴?だーかーら、気にしなくてもいいんだよ。それに、もう黙っておかなくてもいいから」

私が心配を掛けたくない思いで、ハルに言わないでほしいと告げたが、それが真琴を苦しめているのなら解放するのは私の役目だ。

「……樹ちゃん」
「言ったよね、真琴。私とも泳ぎたいって…これも、そのための第一歩だって思ってよ」

何も言わない真琴に「ねっ!」と言って、掴んでいる手に自分の手を置こうとすれば、分かったとでもいうように、その手を離した。


 * * *


「それじゃあ、水泳部の設立を祝いまして!」


「カンパーーーイ!!」


天方先生が乾杯の音頭を取って、私たちは手に持っていた紙コップを掲げた。晴れた青空に、私たちの声が、空高く上がる。
咲き誇る桜が水面に映り、太陽の光が反射して水辺がキラキラと輝いている。気持ちがいいぐらいな透明感。

「まだ泳ぐには少し、肌寒いけどテストも兼ねて水を入れてみたから」

プールの透き通った水に、呑み込まれそうな感覚に陥りそうになって、ゴクッと水分を喉に流し込んだ。過った感情を捨てよう頭を振れば、天方先生から声が掛かり引き戻される。


「朝日奈さんも、コレ持ってね!あとはコレを、みんなで……」


「それーっ!」


渡された冷却水用薬剤、丸い固形物を、みんなで一斉に水の中へと投げ入れた。進水式をしているみたいだった。もちろん船ではないが、祝いの儀式が終われば、始まるんだ。

「いよいよ、水泳部始動だね」
「まぁ、まだプールには入れっ――ちょっと!?ハル、また着てきたのぉ!!」

バサッとジャージを脱ぎ捨てる、遙の姿が視界に入った。スタートコースに立つ遙は、準備万端ともいえる水着姿だ。

「あーしょうがないよ。ハルはそこに水があれば、泳ぎたくなっちゃうから」
「樹ちゃん、座って眺めていないでよ!!絶対、気付いていたでしょ!!」

渚と真琴が嬉しそうに話しているのを、遮ってはいけないと思って黙っていたんだけどな。江はっというと、遙の浮き出る筋肉を見て、惚れ惚れとしてしまっている。

「やっぱり素敵な、上腕三頭筋――!」

「って、上腕?……ええ!!ハル、まだ早いよ!冷たいって!」

「あらまぁ――」

「いいんじゃない。気持ちよさそうだし」

「そうそう、真琴も泳いじゃえば?」

気持ちよさそうに、遙は浮かんでいる。ドでかいパラソルを手にする天方先生も、遙の行動を一緒になって見守るが、真琴はただ一人肩を落としていた。
渚の言葉に便乗して、真琴に勧めてみれば「樹ちゃん!」と睨まれてしまう。

「大変です、ほら、あれ!唇、紫色ぉ――!」
「おぉーホントだー!」
「樹ちゃん、関心してないで止めてって!早く上がらないと風邪引くってぇえ!」
「いっけぇー、ハルちゃん!」

遙は私たちの声にはお構いなしに、ゆっくり ひと蹴りをして、そのまま水の中へと潜っていく。


「だからダメだってーー!」

「私!網、持ってきます」

「えぇ、網!?」


また、あの光景を見れるような気がした。そんな日だった――


“リスタート”


-----
色々と捏造です。塩素剤は素手はいけないはず(?)



prev next

[top]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -