寮の二段ベッドの下段、足を伸ばして月明かりが差し込む部屋で、凛は少し古びた写真を2枚 手にしていた。
一枚は自分の父親が写る昔の写真と、そして もう一枚は幼い頃の自分とその隣で笑う女の子の写真。


光が写真に当たるように、持つ手を掲げ伸ばそうとすれば、携帯の液晶ディスプレーが光った。着信を知らせている。躊躇いながらも、手にすると表示されている名前に驚いた。

手にしていた、写真に写っていた女の子だったからだ――…‥


「………よお、肉食いに行く気になったのか?」
「ハーイ!リーーンちゃん!!元気にしてた?」
「――― 樹、切るぞ」
「待って、待ってって、ごめんッ!」


携帯に耳を傾けたまま、凛はベランダを開けて、そのまま夜風に当たるため外へ出る。

「なんだよ、お前が電話掛けるなんて珍しいな」

四年間の間、一度もなかった。ずっと気にはしていた。ずっと。


「んー、言いたいことあってさ」

「樹も江やアイツのように、水泳部作ったとかいうお節介な報告ならいらねえからな。――言った途端に、切るぞ」

「おー、やっぱり知ってたか。

 あ!アイツって真琴のことでしょ?残念ながら、私は真琴や江みたいに優しい人間ではないんで報告はしないよ」


自分で振ってしまったことに苛立ちを感じてしまう。樹の口から出た、男の名前にイラつくとは情けない。

「………じゃあ、なんだよ?」

少しの沈黙が出来て、微かだが波の音が声と一緒に聞こえてくる。
きっと、俺と同じで外にいる。いや、むしろ 樹が空を見ている気がしたから俺も外へと出たんだ。


「言い忘れたことあってさ ・・…… おかえり、凛」

「あぁ、ただいま」


聞こえてくる声が心地よい。風に吹かれながら、届けばいいと思ってしまう俺は くせぇっと思う。
話したのは、ほんの少し。「言い忘れたことが気になって」と笑う声に、用なんてその言葉を言うこと以外 ないんだろうと思い、じゃあなっと告げて終話ボタンを押した。
無機質の機械音を聞く前に、自分からボタンを押して、そのままベッドに携帯を放り投げた。



「お前は優しいよ。樹、」



樹の声を、耳に残しておきたくて。自分から通話を終わらした。


“想いだす”




[top]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -