「これが、部活申請の条件ですか?」

「樹?」

「あら、朝日奈さん!」


廊下の窓から遙、真琴、渚と天方先生がプールへと向かっているのに気付き、思わず私も近寄っていた。水の張っていない、使われていないプールに。
天方先生が部活申請の条件に、補修して使えるようにすることを話していたもので、楽しそうだと私は口にした。



「あ!?そうだ、イツキちゃんもぶっ――」
「わぁぁぁ!渚、ほら草むしるぞ!!」


渚の口を手で塞ぎ、プール内へと引っ張っていく姿に私は首を傾げた。


「ん?真琴、どうかしたの?」
「さあ?」


話を遮れ、真琴に押し出された渚は、怒るように「なんでなんで、イツキちゃんも誘えば部員数足りるでしょ?」と口にする。
プールサイドにいる遙と樹には聞こえていないことを確認して、真琴は胸を撫で下ろした。


「その話、樹ちゃんに振ったら、俺 渚のこと嫌いになるから」
「えぇ、え!?」
「いいから、渚!草むしりするよ」
「あ、はーいっ…‥」


訊きたい気持ちがいっぱいだったが渚はそれを止めた。
八の字眉が特徴の真琴の顔が、何も聞くなと言わんばかりの顔をしていたからだ。初めて見るその顔に、渚は触れてはいけないことなんだと察した。


「軍手、貰って来たよー!」


上着を脱ぎシャツの袖を捲って、準備万端の遙の横で樹は声を上げる。重ねた軍手をひとつに纏め、球のようにし真琴と渚に投げ渡すが、それが渚の頭へと当たってしまった。


「おぉ!ナイスヒット!」
「確かに、ナイスな当たりだな」
「いったぁ――――!イツキちゃん!!」
「えっ、渚、樹ちゃん」
「ごめーん!渚――っ!」


桜の木に囲まれていることもあって、桜の花びらや枯れ葉、生え放題の雑草で荒れ果てていた。古くて使われていないっと言われていただけあって、根気のいる作業になりそうだ。
生え放題、伸び放題の雑草を抜くのに、何度も尻もちを着いてしまい残念なことに制服も汚れてしまった。


「あまちゃん先生、いなくなっちゃうし…私もそろそろ」

「ダメだ」


プールサイドへと上がろうとすれば、後ろからワイシャツの襟元を遙に掴まれてしまう。その目は、私を捉えていた。


「応援、してくれんだろ?樹」

「…‥っ、続けますよ。続けます!」


見渡すかぎりの草を抜き終わり、花びらも雑草と一緒に山を作り、あらかた終わりが見えた頃、真琴がプール内のひび割れを発見する。
翌日、天方先生に車をだして貰い“Iwatobi DolphinS”へと、必要な工具を買いに向かった。


「ねえねえ、これなんか使えそうだよ」
「ダメだって、イツキちゃん!今日はこれに載っているのを買いに来たんだからね」
「樹ちゃん、残念だけど返そうね」


小型扇風機を手にして、工具の前にいる真琴と渚に見せ付ければ車内で読んでいた月刊 修理工房の雑誌を開いて、渚は見せ付ける。
渚と真琴は、ペンキやらトンカチを手にし、必要じゃない物は買えないと告げた。私には、必要なんだけどな――…‥


「あれ、ハルは?」

「え!?」

「え――っ!!」


側にいないことに二人も気付いていなかったらしく、同時に声をあげた。ここは割と大きいホームセンターなので、二人は「どうしよう」と口を揃えて言う。


「どうしよう!ハルちゃん、家庭用のプール売り場とかかな?」
「いや、まだ夏にもなってないから売ってない気がする」
「あ!水槽は…?」


私の告げた言葉に、二人は買い物かごを置いたまま走り出していた。もしかしたら、また脱いでいるのではないかと思ったからだ。それは見事に的中だった。


「樹だろ、言ったの」

「でも、水槽なんかに入ったら捕まるよ?私は、ハルが捕まったらいやだからね!」


二人に止められた遙はどこか不貞腐れていたので、笑うように告げれば、遙はそのまま顔を横へと背けた。


 * * *


その次の日は、プールの補修の他にもすることはあった。プールではなく美術室へと向かう。勧誘ポスターを作るために、筆やら絵の具を借りるためだ。
ポスターを作ってみたが、ピカソ的な抽象画の渚。得意科目、技術家庭と美術というだけあって見事な才能を見せ付けたハル。
遙が美術部に勧誘されそうになったりと、ちょっとした面白いこともあった。



「あれ、珍しいね。ハルがこっちのクラス来るなんて?」
「やるぞ、樹」


昼休み、購買に向かおうと席を立とうとすれば、立ち塞がるように遙は現れた。
普通なら何をやるのかと、質問をしたくなるが、きっとプールのことだろう。遙の頭の中は、泳ぐことしか考えていない。
案の定、プール内を磨くためのデッキブラシとバケツを渡された。


「ハル、今昼休みなんだけど…」

「ああ、そうだな」

「ご飯は?」

「あとでな」


淡々と磨いていく遙に、応援するっと言ったのは自分だ!っと頭の中で繰り返し、プール内を擦るために力を込めた。



「わぁー、ずいぶん綺麗になったのね」


放課後となれば、水泳部の顧問になった天方先生が顔を出す。
しかし、日傘とデッキチェアーを持ち込んで、見物のみしかしない。渚に手伝ってほしいと言われるが、紫外線に当たるのを嫌がって動こうとはしなかった。


「なんか、楽しいね。小学の頃に戻ったみたいで」
「小学生がプールの修理とかなんかしないだろう」
「でも、楽しいのは一緒だよ?ね!ハル、真琴」


遙を真ん中にして壁際にセメントを塗っていれば、江の声が聞こえてくる。差し入れ持って来てくれたのだ。有難く貰い受け、一息つけてまた作業へと戻った。


“準備!準備!”




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