水泳部を作ろうと告げた渚が、全は急げというように 私たちを巻き込むようにして遙の家へと直行した。遙は、毎度のことのようにお風呂場でぶくっと水に浸かっていた。
真琴は再度、確かめるように居間で体を拭く遙に、部員になるんだよと口にすれば「わかってる」と遙が告げる。


「あ!ハルー、もっと腕を伸ばしてー」

「………は?」

「あ、あの、樹さん!!?」


目を覆い隠しながら戸惑う江の視線が、筋肉へといっていたのでコソッと耳打ちをするように「だって、そうした方が浮き出るじゃん、筋肉」と告げれば、より顔を赤くしていた。
頬を赤くする女の子は やっぱり、可愛い。


お茶を準備するために台所へと行けば、江と軽く挨拶を済ませた遙が側へとやってくる。


「――――いいの?水泳部」
「いいもなにも、決めたことだ」
「そっか!そっか!」

嬉しそうに口にする樹の顔に、遙はボソッと告げた。

「樹は、どうするんだ?」
「どうするもなにも、私は応援するだけだよ」
「……お前は、」
「ん?何、ハル」
「いや、いい」


遙は最後の言葉を飲み込んでいた。樹の笑みに、誤魔化すように押し切られていた。聞いてはいけない、そんな気がしたからだ。


「……‥(お前は、泳がないのか)」


真琴に貰ったスルメイカを魚焼き器に広げれば、凛についての話が聞こえてきた。毎年正月には帰ってきたという江の言葉に、一瞬だけだが遙の顔が曇っていた。
「“凛と泳いできた”」―――― それを中一の冬、ハルから聞いて知っていた。あのときの顔は今でも忘れていない。その後だ、一年の終わりにハルが競泳を辞めたのは。


そして中二の、夏を迎える間近 あることを切っ掛けに私は泳げなくなった。
だから、ハルは…


“知らない”


私が泳げなくなったことを知らない。私も、凛と何があったのかは知らない。



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