「ばっかも――ん!お前たちは反省する気はあるのかっ!」


職員室に響く声に、思わず目を瞑ってしまう。怒られているのは自分ではないが、知っている人たちなので少し痛い。
出し忘れていた古文のプリントを天方美帆こと、あまちゃん先生に提出しに来れば 真琴、遙、渚が怒られていたのだ。

先生がいうには、鮫柄学園に乗りこんで屋内プールにいるのを見つかったということ。


「やっぱり、ここは私がなんとか…」

「え、あまちゃん先生?」


天方先生が偉人の名言を唱えながら、胸に手を置き、遙たちの側へと駆け寄っていった。助け舟をするために。



「また、ハルは早引きですか?」
「うんそうだね―…‥って、樹ちゃん!いつの間に」
「えぇぇ―、イツキちゃん!?」

ワンショルダーを背負った遙が校門へと歩いて行くのを見て呟けば、真琴と渚は驚きながらも、いつから居たのと聞いてくる。


「職員室からだよ、大変だったみたいだね?」

「そうなんだよ。ゴウちゃんから、リンちゃんの学校聞いてね、行ったのは良かったんだけど話どころじゃなくて」

「ホント、大変だったよ」


苦笑い気味に、渚と真琴は私に言ってくる。置いてけぼりをくらった気がした私は、少し不貞腐れ口調で二人に告げた。


「で、二人は江に会ったのか。いいね、いいねっ!」
「だって、イツキちゃん!一緒にハルちゃん家に行こうと思ったら、先に帰っちゃったじゃん」
「それに 凛のいる鮫柄は男子校だから、俺ら三人で会いに行くってメールしたよね?」
「あ、そうでした……‥ごめん」


ちゃんと真琴からメールを貰ったのに、その日はすぐ寝てしまったんだ。そんなことを思っていれば、後ろから声を掛けられる。


「あ、あの、もしかして樹さんですか!?」

「!、…江っ!?」


待ちかねていた再会の時だった。伏し目がちに聞いてくるその姿が可愛くて、思わず抱き付いていた。江の「ふぎゃっ」と漏れた声に、私の顔は緩んでしまう。


「ねぇねぇ?なんで、イツキちゃんは“ゴウ”でいいの?」
「あ、それ 俺も気になった!」
「いいんです。樹さんは、私の、憧れなんです!」
「え!? 私が憧れって、大した人間でもないけど…?」


結局、江に話を逸らされてしまう。照れ臭いことを言われたら、どう反応したらいいか分からないので、私自身 聞かなくていいと思い追及はしなかった。
今、重要なことは凛のことだ。江も、兄の凛が変わってしまったことに分からないっと言う。メールも電話の返信もないのだと。


「皆さんと再会すれば、何か分かると思って」


スイミングクラブが取り壊されることを凛にメールで送れば、何か返信をしてくれるのではないかと思ったが、それさえも反応がなかった。
少しでも凛のことが聞きたくて、江は 遙の家へ足を向けた。そこで真琴と渚に会ったということだった。



「そうだ、いいこと思いついた!水泳部、作ろうよ!!」


――そしたら試合でリンちゃんに会えると思わない? 渚の、その一言から始まった。


“もう一度”


泳ぐために、会うために、知るために。あの景色を見るために。



prev next

[top]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -