プロローグ
『ユウキ〜っっ!!!』
『ん?また来たの、歩莉。』
『うん!ね、またバスケ教えてよ!!』
『はいはい、もうちょっと待っててね。もう少しで、やる事終わらせるから。』
『はぁ〜いっっ!!!』
あの頃の私は、ただ純粋に、バスケが好きだった。
練習して、上手くなることがすごく楽しくて、ボールをいつも持って、ユウキの土古路に教わりに行ってた。
"子役"という仕事をしていた私には、バスケをする事が、ユウキと一緒にいることが、一番心安らげる時だった。
いつも笑顔を絶やさなかったユウキ。
私は、ユウキに憧れて、そうなれるように、毎日努力していた。
大事な、大好きな人。
一番、失いたくなかった人だったのに。
『ッ危ない!!!』
中学生になり、私は部活と勉強と仕事を掛け持ちして、毎日が忙しかった。
ユウキに会いに行く時間も、減っていった。けれど、少しでも時間が空いたら、すぐにユウキに会いに行っていた。
あの日も、そうだった。
ザァザァと雨が降っていたけれど、ユウキにメールをしたら、大丈夫と返ってきたので、私は心を踊らせながら、いつもの道を早歩きで進んでいた。
スクールバッグをしょい、片手にはバスケットボールの入ったバッグを持ちながら。
最後の信号で、赤信号に捕まったとき。
キキィイイイイイイッッッ
車のブレーキの音が、大きく鳴った。
道路を見ると、小さい女の子が、バスケットボールを持って、その場に立ち尽くしていた。
私は、咄嗟に道路に飛び出そうとした。
もちろん、女の子を助けるために。
―でも、私は遅かった。
ドンッ
鈍い、音がした。
飛び出そうとして、離した傘が、地面に落ちる音がして
目の前を、大きなトラックが横切って
さっきの小さい女の子が、私のすぐ前に倒れていて
トラックから離れた所で、女の人が、倒れたいた。
「…え………?」
あの日から、演技をしているとき以外、私は笑わなくなった。
本当の私は、あの時から時間が止まったまま、身体だけが成長していく。
こんな、こんな人生があるのだろうか。
すべてが演技で固められた人間が、いるのだろうか。
いや、もうすでに、私がそうなのだ。
本当の私は、いつも心の奥深くでいつも涙をながしている。
私はただ、人に言われたように人生を歩んでいく。
二年間、そう、思い続けてきた。
――あの人が、現れるまでは。
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