「お、三好」

仕事場からの帰り道、夜になっても人の引く気配がないサンシャイン通りで、見知った赤毛を呼び止めた。道の端を人目を避けるようにして歩いていた三好はぴたりと立ち止まり、きょろきょろと首を回す。こっちだ、再度門田が呼びかければ、三好はようやく門田の姿を見つけられたようで、門田さん、とほっとしたようにはにかみながら、こちらへ駆けて来た。
その顔色に酷く疲れが滲んでいるのを見て取って、門田は心中でおや?と首を傾げた。

「こんばんは、門田さん」
「おう。どうした、こんな時間まで。また色んなとこ走り回ってたのか?」

ここ最近、池袋中をあちこちと走り回っては色々なことに首を突っ込んでいるらしいことは、門田も知っていた。あまり危ないことに首を突っ込みすぎて怪我なんかしなきゃいいんだが、と内心心配もしていたのだが、三好はその持ち前の性格からか、あちこちに数多くの味方がいるらい。それならば何かトラブルに巻き込まれたとしてもいくらかは安心だろうと、とりあえず三好の行動にとやかく言うことはしていなかったのだが。

「あ……今日はちょっと、ゲーセンに、」
「ほう、そうか。珍しいな、お前のことだからまたあちこちに足を伸ばしてるのかと思ったよ」
「……」

どうにも三好の様子がおかしいと、また門田は内心で首を傾げた。顔色が悪いというか、どうにも元気がないように見える。いつもならばにこにこと、それこそ犬のようにひょひょこと自分の元に駆け寄ってきては嬉しそうな顔をするというのに。

(何かあったのか?)

トラブルにでも巻き込まれているのだろうか。最近まで池袋を東奔西走していたというのに、今日はそれをしていないというのもどこか引っかかる。これはちょっと、ちゃんと話を聞いてみたほうがいいかもしれない。

「そうだ、三好。ちょうどこれから飯食いに行くところなんだけどよ、お前も来ないか。奢ってやるよ」
「え……あ、いい、です。そんな、迷惑はかけられないですから」

渋る三好に尚も言い募ろうとしたときだった。

「やあ、三好君にドタチン。奇遇だねえ、こんなところで」

雑踏の中から聞こえてきた声に、門田はそちらを見やる。現れたのは新宿に居を構える級友で、三好とも面識のあるらしい男だった。

「だから、そのドタチンって呼び方止めろっての」
「いいじゃないか、そんな細かいこと。そんなこと気にしていたら器の大きな大人にはなれないよ?三好君も、そう思わない」

ここでようやく、門田は三好がずっと沈黙していることに気が付いた。背の低い後輩を見下ろせば、礼儀正しい彼にしては珍しく、臨也に挨拶をするどころか、顔すらも向けていない。俯いた子供の顔色は、真っ青、だ。

(まさか、)

さっきから様子のおかしかった三好が、臨也の出現と共に更にその様子を変える。これはもしかしなくとも、原因は、臨也なのだろうか。

「まあ、ドタチンのことはいいとしてさ。酷いじゃないか、三好君。俺の連絡に出てくれないなんて、街でも俺を避けるみたいにこそこそしてるみたいだし?傷つくなあ」
「っ……」
「そのくせドタチンとは普通に話してるんだもん、差別はいけないと思うよ、差別は」

三好の肩が小さく揺れているのに気づいて、門田はいよいよ確信した。原因はやはり、この級友にあるらしいことを。また何かよからぬことを、この男はやらかしたらしい。それも、よりにもよってこの後輩に、だ。

「もしかして、この間のカラオケボックスのこと気にしてるの?そんなことでシカトされちゃ困るんだよね。こっちにも色々予定が、」
「悪い臨也、これから俺たち飯食いに行くとこなんだ」

臨也の言葉を遮った門田に、三好もえ?と驚きに顔を上げた。臨也も予想していなかったのだろうか、一瞬だけ目を見開いたがすぐに口を開こうとする。しかし臨也が何かを言う前に、門田は三好の腕を引っ張って歩き出した。

「じゃあな、臨也」

早足に雑踏に紛れ、三好を連れ出す。どうやらこの門田の判断は正しかったようで、ほっと力を抜いた三好が小さく「ありがとうございます」と呟いた。

「何があったかは、言いたくないなら別に聞かないけどな。とりあえず臨也にああ言っちまったんだ、飯には付き合ってもらうぜ」

美味いラーメン屋、連れてってやるよ。そう言えば三好ははい、と嬉しそうに笑ったが、やはりまだ臨也が気になるらしい。背後をちらちらと窺っていた。

きっと三好は、何も言わないだろう。そういう性格の奴だということは知っているし、無理に聞き出すつもりも門田にはな。ただ、助けになってやりたいとは、思っている。
三好は大事な仲間で、後輩なのだから。


とりあえずはラーメンでも食わせて、三好のその暗い顔を明るい顔に変えてから。
話は、それからだ。










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