すきだなあと、そう思った。
頭を撫でてくれる大きな掌も、優しく細められる瞳も、ぶっきらぼうだけど労わりの滲む物言いも。
短気で怒りっぽくて頭に血が上ると暴力的になるけれど、そんなところも含めて、全部全部、すきだと思った。漠然とした思いだった。
好きだと伝え合った仲だったけれど、先輩と後輩という間柄を超えるようなことをしたことはあまりなかった。ただ一緒にいられるだけで僕は満足だったし、それは静雄さんもそうだったみたいだった。だから過度な触れ合いは、数えるくらいしかしたことがない。
「お前といると、なんか、すごく癒される気がする」
「そ、ですか?」
「おう。なんでだろうな、お前は特別なんだ」
並んでコーラを飲んで、静雄さんは煙草を吸っていた。
通りから少しだけ外れた路地。喧騒は近くも、遠くもない。
すきだなあと、そう思った。なんで僕なんだろう、なんで僕のこと、選んでくれたんだろう。
そんな考えも、吹き飛んだ。ただすきだなあって、そう思って。
煙草から口を離したのを見計らって、彼の肩に手をかけた。背伸びをして、顔を近づける。そうしたく、なったのだ。
「……」
頬に唇を寄せて、すぐに離れた。してからすごく恥ずかしくなる。顔を上げられなくて、誤魔化す様にまたコーラに口をつけた。静雄さんは、少しの間硬直していた。多分驚いたんだと思う。
少しして、ぽん、と掌が頭に乗せられた。くしゃりと髪の毛が音を立てる。くくっ、と静雄さんが笑う気配がした。
「よくできました」
なにが、とは問えなかった。けれどどういうわけか、褒められた、らしい。
喧騒は近くも遠くもない。今更ながらにこんな道端で思い切ったことをしてしまったと、とても恥ずかしくなった。