煙草を吸う本数が増えた、翌日が仕事なのに酒を飲む機会も増えた、最近は常時苛々している。
欲求不満。あえて目を背けてた一つの事実に、静雄はどうしようもない思いでため息に紫煙を乗せて吐き出した。

(……シンガポールか)

次に戻ってくるのはいつだろうかと途方もない考えを頭に浮かべて、煙草を灰皿に押し付ける。まさか、遠距離恋愛がここまで堪えるとは一体誰が予想しただろう。がりがりと頭を掻き毟るが、気分の悪さは晴れない。中学生のガキじゃあるまいし、と理性的に自分を諭そうとするが我慢弱い自分の性質は自分が誰よりも一番知っている。仕方なく、静雄はここ最近就寝前のお供になっている酒の缶に手を伸ばした。酔っ払わなければ眠れなくなるなどと、本当に大人の面目がまる潰れである。

「会いてえなあ……」

一口酒を煽って呟いた言葉に、返事はない。僕もです、と、携帯の向こうから聞こえてくるだろう機械音を脳内で思い浮かべて、ああやっぱり肉声が聞きたいと酷く落胆する。
声を聞いて、顔を見て、嬉しそうにふにゃりと笑う笑顔で癒されて、その細っこい体を抱き締めて、背中をなでて、丸くて柔らかい頬に指を滑らせて、唇を寄せて、とにかく触って、舐めて、なぶって、善がらせて、あの笑顔を快楽でぐずぐずに蕩けた顔にしてやりたい。
そこまで一瞬の内に妄想をしてしまい、静雄は慌てて酒を勢いよく煽る。これ以上は体によろしくない。限界がきているのは重々承知だが、ここで本能に負けようともただ虚しくなるだけだ。なんたって三好は海の向こう、遠い異国の地にいるのだから。

(情けねえ……)

自分に酷い絶望を覚えながら、今日も静雄は酔いつぶれるまで酒を飲んだ。幸いにして、明日は休みである。空き缶の数が二桁を超えたところで、意識はなくなった。





からん、という軽い金属か何かがぶかる音に、静雄はうっすらと目を開けた。室内は暗い。電気消して寝たっけか、と思い起こすが記憶は曖昧だ。相当量飲んだ気だけはする。重い体を起こすと、薄暗い中で白い何かが動いている。向こうも静雄が起きたのに気づいたのか、こちらを向いた。

「あ……ごめんなさい、起こしました?」

空き缶を拾い集めゴミ袋に放り込んでいたらしいその声は、姿は、見間違えるはずもない。

「三好、か?」

白いパーカと見慣れた来良の制服、赤毛に少し釣り目がちの瞳、細身の痩躯。
今や遠い異国の地へと生活拠点を移してしまった三好吉宗の姿が、確かに、そこにはあった。

「はい。あの、合鍵使わせてもらいました」
「そうか……」
「ちょっと、手違いで。こっちにくるのがこんな時間になってしまって……今日はホテルも予約、してなかったので」
「そうか……」
「すいません……あの、静雄さん?」

静雄の反応がどこか呆けていることを不思議に思ったらしい。三好はゴミ袋から手を離すと、静雄の傍まで寄ってくる。顔を覗き込んでくるその子供の肩に手を伸ばすと、静雄は勢いよく引き寄せた体を自分が今まで寝ていたベッドに放り投げた。

「わっ……!」

ギシリ、と沈んだベッドの音と三好の戸惑ったような声。しかし静雄は構わずその体に手を伸ばす。三好がこんなところ、自分の目の前に、こんな格好でいるはずがない。ならばそう、これは夢だ。夢なのだ。欲求不満が過ぎた自分が見てしまった浅はかな夢。ならば、せて夢の中だけでも楽しまなければ。起きた時に、どんなに後悔することになろうとも。

「あの、静雄、さ、」

戸惑いの声を上げる三好を無視し、静雄は乱暴に子供のワイシャツの前を開いた。ボタンが飛び散るが気にしない。なんたって夢だ、多少手荒にしようとも誰が咎めるわけでもない。
三好は飛び散ったボタンに怯えたのか、ワイシャツの前を合わせてベッドの上で後ろに下がろうとした。その行動に少しだけむっとして、静雄は細いその足首を引っつかみ、思い切り引き寄せる。

「逃げんなよ」
「っ、」
「いつ目覚めるかわかんねえんだ、抵抗すんな」
「しず、」

何か言いたげな唇に自分のそれを押し付ける。ああ、久しぶりの三好とのキスだ。欲しくて堪らなかった子供の味だ。それだけで、静雄は酷く興奮した。一旦口を離して、その小さな口に指を突っ込む。無理矢理大きく開かせたそこに今度は獣のような荒々しさで噛み付いた。

「っ、ん!」

舌をねじ込んで、奥に引っ込むそれを引き出す。三好の舌をじゅるりと吸い上げながら歯で軽く噛み挟むと、体が跳ね上がったのが分かった。

「ん、んっ、」

胸を押す手はしかし静雄にしてみればなんの抑止にもならず、逆に興奮だけを呼び起こす。口の中を激しく舐めしゃぶりながら、子供のベルトに手をかけた。バックルも力任せに握りつぶして破壊し、乱雑に引き抜く。緩められた前に驚いたのか三好が軽く体を揺らして抵抗したが、ズボンと下着を破り捨てる勢いで引き下ろせばそれも弱まった。

「っ、ぁっは、し……ず、!」

口を離せば真っ赤になった三好の顔が目に入る。キスは何度やっても中々慣れなかった。鼻呼吸など大して難しいことでもないのに、変なところで不器用な子供なんだなと愛おしさを覚えたのは、それほど最近でもない。パーカーとブレザーも剥ぎ取りながら、その真っ白な胸に舌を這わす。赤い飾りをべろりと舐め上げれば、息を詰める気配がした。ここも弄ってやりたいところだったが、生憎と今の自分には余裕がない。それに、この夢がいつ覚めるとも限らない。早々に子供の下肢に手を伸ばす。触れた性器はまだ熱すら持っていなかった。

「静雄さん、まって……!」

握りこめば唾液でべとべとの子供の口から悲鳴があがった。少し痛いのかもしれないと思い多少握る力を緩めたが、扱く手つきだけは緩めなかった。

「っあ、あ、……ゃっ!」

ぎり、と三好は唇を噛み締める。どうにもこの子供は声を出すことをやけに嫌うらしい。恥ずかしいからと、頑なに声を噛み締める。常ならば三好の意思を尊重して好きにさせておくところなのだが、今日ばかりはそれが気に食わなかった。噛み締められたその唇に指を這わせ、無理矢理こじ開ける。中指と薬指を突っ込むと三好は驚いたように目を見開き、はらりと生理的なものであろう涙を流した。

「夢の中でくらい、声、出せよな」

この時の自分はどんな顔をしていたのだろう。鏡など見なかったから分かりもないが、三好の怯えようからして、多分相当に悪い顔をしていたようだ。

そんなことに気を配る余裕は、少しも残っていなかったが。




この時になって、静雄はようやく飲みすぎたことを後悔した。愛おしくて触りたくて抱きたくてむちゃくちゃにしたくて堪らなかった子供の体が今自身の下に横たわっているというのに、生憎と静雄のそれは熱を持つこともなく、使い物にならない。アルコールが入ると勃たなくなるというのは分かっていたが、何も夢の中でまでそんなリアリティを求めたくはないというのに。

(あー……入れてぇ……)

衣服を全て剥いでうつ伏せに転がした子供の背に舌を這わせながら、静雄は苛立ちから浮き上がった肩甲骨に歯を立てる。大した強さをこめたわけではなかったが、それでも三好はひくりと肩を震わせた。ふーふーと荒い息遣いが聞こえる。またシーツを噛んでいるようだ。子供の性器を扱く手は休めずに、静雄は空いた手で三好の口からシーツを引き抜いた。

「声、我慢すんな。何回言わせる気だよ」
「っ、ふ、だ、て……」
「だってじゃねえ」
「ぁっ、ぅっ……!」

ぎちりと性器の先端に爪を立て、項に緩く噛み付く。はふはふと喘ぐその口に三度指を突き入れると、三好はいやいやと頭を振った。それには応えず口に入れた人差し指と中指で子供の舌を弄ってやれば、口から漏れるのはくぐもった嬌声。それに満足して、静雄は再び薄っぺらい背中を舐め回す。至るところに噛み付いて、気の済むまで吸い上げて痕をつけた。

「っひ、はぁ……っ、は、ぁ!」

酒臭い自分の呼気と、未だ室内に充満するアルコールの臭い、そして青臭さの中に混じる、子供の香り。それら全部が混ざり合って、なんとも言えない興奮状態に静雄は陥る。しかし悲しいかな、いくら興奮したところで自身が反応する気配はないし、思考も酒のせいでろくろく回ってはいない。完全に酔っ払っている自覚はあるが、かといってこのまま泥酔するなんてこともったいなくて出来ない。

「っ……」
「ぁ!……まっ、しず、さっ……」

既に何度か精を吐き出してぐちゃぐちゃになっていた性器から手を離す。そのまま手を後ろに回し、後孔へと這わす。入り口を指の腹で押すようにすれば僅かにそこがひくついた。

「っ、……ぅ、あ……」
「ほんとは、入れたいとこなんだけどよ」

今日は指で我慢してくれよな、酒の飲みすぎて思いっきり掠れてしまった声でそう囁けば、子供の体は目に見えて赤く色づいた。薄暗い中だが、耳まで赤くなっているのがなんとなく分かる。可愛い奴、口元を綻ばせながら、固く閉ざされたそこに指を突き立てる。久しぶりだから当たり前であるが、やはりきつい。本当に何故こんなにもリアルなのか。夢の中なのだ、もっとご都合主義に出来ていてもおかしくはないはずなのに。

「うぁっ……ぁ、ゃ……」

潜り込ませた指で中を探る。痛いのか苦しいのか、暫くは落ち着かないように身じろいでいた三好だったが、後ろから圧し掛かられている態勢ではろくに身動きできずに、ただ震える手でシーツを握り締めているだけだった。その姿が可哀相だと思わないこともなかったが、いかせん今の静雄は立派な酔っ払いだ。そんな温情的な思考が出来るはずもなく、むしろ入れられないのであれば命いっぱい三好の痴態を楽しまねば、という本能に赴くままのどうしようもない結論にしか至れない。

感覚だけで内壁を擦りながら、腹の裏側を探る。ほどなくして見つかった前立腺と思しき部分に触れれば、子供の体は大げさに跳ね上がった。それと同時に、悲鳴じみた嬌声も上がる。

「あっ、!ひ、……ゃっ、やぁっ!」

逃げを打つ体を押さえ込み、只管にそこだけを抉る。その度に指を締め付ける肉壁は子供が感じ入ってる証であり、自身のこの手が、指が、普段大人びて落ち着いた顔ばかり見せるこの子供をここまで善がらせているのだと実感できて酷く充足感に満たされるのだが、それは常ならばの話。締め付けを感じているのが指という事実に、どうしようもない程の遣る瀬無さを感じる。
入れたい突っ込みたい善がらせたいその細い腰を引っつかんでただ欲望の赴くまま、三好が泣いて喚いてもうやめてと懇願するまで、いや懇願してもそれすら無視して、ただ無茶苦茶にこの未成熟な体を揺さぶりたい。沸いてくるのは頭が焼き切れそうなほどの劣情と、それを実行できない歯痒さ。このままでは本当に、欲求不満で死にそうだ。

「しっ、しずおっ、さっ……!」
「……あ?」

暫くの間一心不乱に指を動かしていたせいか、三好の呼びかける声に気づいたのは相当な時間がたってからだった。途切れ途切れの呼吸の中で静雄の名前を呼び続けていてくれたらしい子供の顔を後ろから覗き込むと、静雄の指を含んだその口回りは唾液でべとべとで、涙もぼろぼろその瞳から零れていた。えろい顔、そう胸の内で呟きながらどうしたと、と尋ねる。

「……か、かおっ……」
「かお?」
「かお、みたい、で、ぅ……」

ああそっか、そうだよな、会うの久しぶりだもんな、顔、見たいよな。静雄はここでようやく、三好の顔をろくろく見ていないことに思い至る。ただその体を抱き潰したくてしょうがなくて、彼特有の、見てるだけで苛立ちも気分の悪さも全部溶かしてくれる、あの温かい笑顔をまだ一回も見ていない。見る前にベッドに投げてしまったから当然といえば当然だ。

仰向けにひっくり返した三好の顔は、正面で見るとさらに艶っぽい。というよりもえろい。その一言に尽きる。吸い寄せられるように唇を重ねた。舌を絡ませ、口腔内を余すことなく蹂躙し、唾液を啜って自分の唾液を注ぎ込む。舌を食めば三好からだが震え、後ろが微かに締まった気がした。

「っ、みよし、」
「ぁふ、は……ん、ん、んっ」

息継ぎの間に名前を呼び、また貪る。ぐちりと埋まっていた指を動かせば、声にならない喘ぎ声が静雄の口の中に消えていった。
普段は意識せずとも出来る鼻呼吸が上手くできず、おかしいなと靄のかかり始めた頭で思う。それでも三好とのキスを止めようとは思わず、ただ静雄は酸欠になるのも構わずに一心不乱に舌を吸った。もっとも、静雄の肺活量は常人並ではないから、つき合わされている三好のほうはとっくに酸欠でぐったりとしていたのだが、それは静雄の知るところではない。
舌を弄るタイミングで前立腺を強く押せば、三好の背が撓るのが分かった。腹に感じる熱い飛沫に、どうやら幾度目の射精を果たしたのだと悟る。ぷはりと口を離して見下ろした子供は酸欠と射精の余韻ですっかりと意識を飛ばしていて、その顔にまた更なる劣情を駆り立てられながらも酔っ払いの意識はここでフェードアウトした。




子供の存在が夢ではなく現実のものであると知り頭を抱える以上に死んでしまいたい気分に静雄が陥ることになるのは、あと数時間後のことである。










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