名前を呼びたかったその口は、男のそれで塞がれる。ぐいっ、と力任せに顎を掴まれ上向きにされた三好の咥内を、静雄は覆いかぶさるようにして、荒らし回った。

「ん、んっ、」

息継ぎの間すら与えられない、激しい口付け。否、これを口付けなどという、可愛らしい言葉で形容しても良いものか。少なくとも、三好が想像していた口付け、キスというものよりも、現実のそれは酷く苦しく、激しく、熱く、羞恥を煽る。
薄汚れた鉄筋コンクリートのビル壁に押し付けられた体は、静雄の逞しい体に圧迫されてしっかりと密着していた。それが余計に、だろうか、三好の体をじわじわ熱くさせていく。それよりも何よりも、気がかりなのは、すぐ傍には、人が大勢行きかう通りがあるという、その一点であった。

「っは、ぁ、し、」

ずおさん、呼びかけた口は、また蓋をされる。酸素を取り込みたかった咥内に、入ってきたのは煙草の苦味が残る舌で、また無遠慮なそれが三好の舌を絡めて、吸い上げた。その瞬間、がくりと体から力が抜けるのを感じるが、三好ごときの小さな体、目の前の男にしてみたら支えることなど訳無いようで、体が無様に落ちることはなかった。

「っ、ん……!」

上顎の辺りをくすぐられて、三好は咄嗟に、鼻にかかるような自分の吐息に、頭の中がぐにゃりと融解するのを感じ取る。静雄の体が微かに動いて、膝が笑っている三好の足の間に、男の足が入り込んだ。故意なのか無意識なのか、膝が足の間を押し上げるその感覚に、びくりと肩が跳ね上がる。そして、じわりと額や背中に汗が滲むほど、顔に熱が集中した。
力ではかなわないと分かっている、三好の顔を掴む静雄の手は離せないだろうから、せめてもと胸を叩いてみた。すると、今度は明らかに意図的な動きで、膝がぐり、と動かされる。悲鳴を上げたかったが、それは男の口に吸われるだけだった。

ぷは、と口を離された頃には、三好はもうまともに喋ることなんかできなくて、静雄の胸にもたれながら、酸素を取り込むので精一杯だった。そんな三好の背をなだめるように撫でる手のひらは、いつも三好の頭を撫でるそれと変わらない、慈愛に満ちている。
はふはふと熱い吐息を吐きながら、三好はかしゃん、という音を聞いた。のろのろ視線を下げれば、投げ捨てられた静雄のサングラスが、足元に落ちている。そして衣擦れの音がして、今度は顔を上げると静雄は首もとの蝶ネクタイを緩めていた。彼もどうやら、三好同様、熱さを感じているらしい。緩められた首元から覗く男の体つきを象徴する鎖骨に、ぽわりと意識を奪われる。

「っ、わ、」

ぼんやりとしていればまた静雄が膝を動かして、三好はひくんと震えた。足には力が入らないから、咄嗟に静雄にすがり付く。伸ばされた男の手が、今度はしゅるりと三好のネクタイを緩めた。開かれた首筋に男は口を押し当て、

「……うまそう」

ただ一言、呟いた。










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