「先輩のお家、行ってみたいです」

まだ日の沈まない放課後、二人で帰ろうと帝人君の手を引きどこに行きたい?そう尋ねたらこの可愛い可愛い後輩は照れ臭そうにはにかみながらそう言った。

「あ、あの、もちろんご迷惑ならいいんですけど、その、」

返事のない俺にそう慌てて続けた帝人君を拒む理由なんてない。いいよ、とそう頷いて彼を自宅に招いたのは十分程前の事だ。

「はい帝人君、ココア」
「あ、ありがとうございます」

きょろきょろと室内を見渡していた帝人君に苦笑しながらマグカップを渡せば、小さく会釈をして彼はそれを受け取る。ふうふうと息を吹きかけながらそれを飲む帝人君はベッドへ背中を預けて座っていた。その隣に俺も腰を下ろす。

「先輩って、一人暮らしだったんですね」
「まあね。卒業したらもっと広い所に移る予定だけど」
「え、この部屋も十分広いですよ?」
「まあそうだけど……俺、ちょっとやりたい仕事あるからさ。そのためにはもっと広い方が都合いいかなあって」

帝人君はココアをちびちび飲みながら俺の話を聞いていた。ちらりとその横顔を伺えば、薄い唇が小さく言葉を紡ぐ。

「……すごいです、先輩」
「なにが」
「ちゃんと、将来の事とか、考えてるんですね」

すごいです、またそう呟いた帝人君は俺の方を見ながら小さく笑った。すごい事なんか無い、俺が卒業後に思い浮かべている将来設計なんて趣味の範疇の様なものだし、それに人様から褒められるような物でもないというのは自覚している。だからすごい事なんてない、それなのに帝人君はすごいですとまた笑う。

「僕は全然考えられないです……やりたい事とか特にないし、どうしたいっていうのもないから。先輩は、やっぱりすごいです」
「帝人君……」

帝人君は憧憬の眼差しで俺を見つめていたが、その瞳の奥には陰りも見える。俺は三年で彼はまだ一年だ。早くも将来の展望を描く俺に自身も焦りを感じているのかと思ったが、瞳の陰りはそれだけが理由ではないらしい。
多分、この子は不安なんだろう。年の差は埋められない、どう足掻いても。俺が卒業して、そして置いていかれるのではないかと不安がっているのだと、思う。彼の口から不安とか寂しいとかそういう言葉をちゃんと聞いた事はないけれど、この子が何を考えているのかぐらい分かるつもりだ。それなりの時間を共にしてきた俺の観察眼を舐めないでほしい。

「帝人君」
「先輩……んっ」

帝人君の手からマグカップを奪うとそっとそれを脇に寄せる。口付けた途端に広がるココアの甘さがキスをさらに甘いもののように錯覚させた。
嬉しいな、と純粋に思った。不安がっている彼には申し訳ないけれど、嬉しい。だってそれは、俺が卒業しても傍に居たいって、そういう事だろ?

「ね、帝人君。帝人君が卒業したら一緒に住まない?」
「、え……?」
「その頃には俺もきっとそれなりに稼ぐようになってるだろうしさ」
「あ、え、えっと……」
「まあ、考えといてよ」

俺からの急な申し出に顔を赤くしてうろたえながらも、帝人君はどこかまんざらでもなさそうだった。それに漏れる笑いが抑えきれなくて、また口付ける。ひくんと跳ねた体を背後のベッドに押し付け、深く深く口を合わせれば帝人君も応えるようにおずおずと口を開いてくれた。

「んっ……っふ、ん、ん」

相変わらずキスの下手くそな帝人君だけど、下手くそながらに懸命に俺の舌に応えようとしている帝人君はすごくいじらしくて、可愛い。この子のこういう所が好きだと思う。慣れてもいないし下手くそだし耐えられないくらいの羞恥に襲われているはずなのに、決して俺を拒絶はしない。それどころか受け入れようと一生懸命になってくれる。息継ぎの仕方も分からないくせに、それでも健気で必死で。
こういう所が、心底愛しいと思うのだ。

「っは、あ、ふは……」

ココア味の濃厚なキスを続けて数分、解放すれば彼の口の端から唾液が伝う。それを舐め取りながら腰の砕けている帝人君の足の間に体を割り入れれば太股辺りに感じる帝人君の昂り。

「……帝人君、触っていい?」
「は……え、?」
「前、たってる」

するりとキスで熱を帯びたそこを撫でれば、帝人君は喉の奥で音にもならない悲鳴を上げて体を強張らせた。どうやら自分で気付いていなかったらしい。ああもう、あがる口角を抑えきれない。本当にこういう所が可愛いのだ、無知で無垢で健気で怖がってるくせに俺を拒まない。そういう所が本当に、苛めたくなる。
めちゃくちゃに、したくなる。

「ぁ……先輩、あのっ」

かちゃかちゃと制服のベルトを緩めズボンと下着をずり下げると、確かな熱を持つ性器を躊躇い無く握り込んだ。帝人君は少し怯えたような顔をしながらふるふると体を震わせる。茹であがったたこにも負けない真っ赤な顔に羞恥に苛まれているのは見て取れたが、俺だって半泣きの帝人君の表情を見せられて完璧にスイッチが入ってしまったのだ、止めてはやれない。

「あっ、ぅ……ん、んん、あ、」

にちにちと先走りを零し始めた性器に帝人君の息が上がっていく。帝人君の額や頬、首筋に唇を落としながら、俺も自分のズボンの前を寛がせた。

「あっ!せ、せんぱっ……」
「一緒に、ね……」
「あ、うあ、あ、あっ……」

二人分の性器を握り合わせて激しく上下に扱けば、裏筋が擦れ合ってすごく気持ちがいい。ほろりと帝人君の眦から涙が伝うのを舐め取る。舌先に感じるしょっぱさすら愛おしくて、そしてますます興奮した。互いの熱が混じり合ってどちらの熱でどちらの先走りなのかも分からない。挿入はしていないにも関わらず一つになったような錯覚さえ覚えて心が満たされていくのを俺は感じた。

「ああっ、ゃっ……せん、ぱ、あ、う、あぁっ!」

反射的にだろう、腰が引けてしまう帝人君に小さく舌打ちして足を大きく開かせる。ぐっと股間を押し付けて軽く腰を揺すれば彼の口から一気に淫らな悲鳴が飛び出した。

「あっ!せ、せんぱい……っやだっ……」
「もっと足、開いてよ」
「ゃだ……はずか、し……」

泣きながら首を振る帝人君ははずかしい、を繰り返しながらえぐえぐと喉を鳴らす。正直泣きながらいやだなんて言われたってこちらの情欲を煽るだけだ。この子はいつまでたっても自分の表情がどれだけ俺の理性を揺さぶるかを理解しない。無知で無垢で健気なくせに、こういう所は性質が悪いと度々思う。

「あ、ひゃっ、ああっ、んんっ、ふ……」
「っやば、きもちいい……」
「あああっ!せんぱ、っあ!せ、んぱ、せんぱ……んゃぁっ!」

帝人君の足を抱えながら手の中でひたすら熱を育てていく。どちらのものか分からない先走りでぐちゃぐちゃといやらしい音が響けば、それすらも興奮材料だ。
背後のベッドに彼の上半身を押し倒し、再び深いキスをした。唾液を啜り舌を吸い合い、喰らおうとする勢いで彼の口内を貪っていく。口の中で帝人君の舌が震え、連動するように腰も跳ねるのがまた可愛い。

「んんっ、ふっ、んぅ……!」

絶頂間際に加えキスで呼吸がままならないらしい、帝人君の手が俺の胸をひたすら叩くが敢えて無視を決め込んだ。

「ん、んっ……っふはっ、あ、ああっ!」
「くっ……!」

ぎゅっ、と一際強く先端を擦り合わせた瞬間、二人分の精液が吐き出された。俺の手と帝人君の足を汚したそれが室内に青臭い匂いを充満させていく。しかし脱力感から互いにすぐに始末する気にはなれず、帝人君はくたりと背後のベッドに倒れ込み俺も帝人君の体に覆い被さるようにベッドへ体を沈めた。

「っはぁ……はあ、ふっ、あう……」
「大丈夫……?」

汗ばんだ前髪を払うと涙と熱で潤みに潤んだ瞳と視線がかち合う。その瞳に誘われるがまま、また俺達は唇を重ね合わせた。

(そういえば、何の話をしていたんだっけ)

少し前の事すらも思い出せないくらいに夢中だなんて、自分で自分を笑ってしまう。けれどそれでいい。
今はまだもう少し、この余韻に浸っていたかった。

二人で過ごせるこの時間を幸せと思える程の、余韻に。










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