「みーくん」

懐かしい呼び名に驚いて顔を覆っていた手をどかせば、さっきはあんなに嫌な風だなと思った笑顔が形を潜め、昔よく僕に笑いかけてくれたものと同じ、優しい笑みがそこにはあった。さらさらと頭を撫でられてみーくんとまた名前を呼ばれる。昔とは違う、声変りを迎えた彼の声は低くて、でもとても綺麗で、その声にうっとりとしながら、僕は泣くことも忘れて彼の掌を受け入れた。

「こわい?」
「、……」

尋ねられて、正直に首を縦に振る。怒るかな、と思ったけど彼の表情は変わらず、そっかと呟いただけだった。まるで昔のようだ、と思った。僕が彼をいざくんいざくんと呼んで後ろをついて回って、その度に彼は笑って振り返って手を取ってくれた。そのときの笑顔と、まるで一緒だ。顔立ちはすっかり大人になってしまっているけど、その笑顔は何にも変わってなくて、僕はようやく、今の彼と昔の彼の共通点を見つけることができて、ほっとした。

「正直ね、君はもう俺のこと忘れてるんじゃないかって思ってた」
「え……」
「だってこんなにも年が離れてるし、遊んだのもだいぶ昔の話だ。もうとっくに俺のことは記憶の彼方に消え去って、毎日楽しく学生生活送ってるもんだと思ってたよ」
「、そんな、こと……」

弱弱しい声しか出せないことをじれったいと思いながら、じっと彼を見上げる。彼は小さく小首をかしげてなに?と僕の言葉の続きを促した。
言ったら、引かれるかも、と少しだけ尻込みするが、結局彼の視線には嘘を突き通せなくて、小さく口を開く。

「……僕、もうずっと前から、好きだったから……忘れたことなんて、なかったです……」

なら同じだね、と彼は笑う。

「俺も、忘れたことはなかった」

ちゅ、と彼の唇が瞼に落とされる。再び彼の指が後ろに入り込もうとしてきて、僕は慌てて身を捩った。けれど大丈夫だから、力抜いてて、と彼に耳元であやされてしまえば、もう抵抗なんてできない。不思議と、さっきまであんなに彼のことが怖いと思っていたのに、今はさほど恐怖を感じない。未知の部分に触れられる恐怖というのは健在だけど。

(同じ、って……じゃあ、いざくんも僕のこと、好きなの、かな)

先ほど服の上から散々なぞられたそこに、指がぷつりと入り込む。とっさに体が強張ってしまったけど入ってきた指は濡れているようで、そのままぐいぐいと中に入ってきた。

「っ、いざ、さ……ぃた、」
「我慢して」
「く、……ぅ、ぁ、ぁ……」

まだ指一本でぎちぎちを音を立てるほど狭いそこに、半ば無理やり二本目が入ってきたさすがに目を見開いた。背中を仰け反らせて、彼の二の腕に爪を立てる。ちょっと、これは、半端なく、痛い。

「っやだ……いたっ、むりぃ……」
「、もう少しだから、我慢して」
「ゃ、ぃたい、ぬいてっ……!」

いやいやと頭を振り乱す僕は、彼から見たらまあ滑稽なほどにみっともないのだろう。けれど自分の体裁なんか気にしていられる余裕はない。本当に痛すぎて、泣き叫びたいくらいだ。無理やり拡張しようとする指は濡れてはいても場所が場所だけにそう容易くは広がらない。排泄にしか使わない場所に好きな人の指を突っ込まれているという状態だけで軽く憤死ものなのに、それに加えてこんな痛みも味わうことになるなんて。肉体的にも精神的にも、ダメージはかなり大きい。

「っ、いい子だからさ、みーくん」
「、ふぇ、っぅ、うくっ……」

ひくりひくりとしゃくりあげ始めた僕を宥めながら、彼は何かを手にした。瓶のようなそれのキャップを器用に口であけてしまうと、その中身を後ろに容赦なくぶちまける。ぬるついた冷たい液体にますます体が強張ったが、どうやら先ほどか彼の指を濡らしていたものはそれだったらしい。液体の滑りを借りて、ぬぷぬぷと音を立てながら指が出入りする。

「、どう?こんだけ濡らせば、ちょっとはマシでしょ」
「ぁ……ぅ、」
「って、わかんないか」

そのうち水音が大きくなってきて、先ほど性器を扱かれていたみたいな音が立ち始めた。痛みが徐々に和らげば、今度は聴覚がその音を多分に拾ってしまいまた羞恥が煽られる。だんだんと、中のほうも変な感じがしてきて足ががくがくしてきた。

「ふっ、うぅ……くっ、ぁ、」

唇を噛み締めながら、彼の二の腕に立てていた爪の力を少しだけ弱めた。力を入れすぎたせいか掌が白くなっていて痛い。彼は僕の額やら瞼やらに唇を落としながら、熱心に後ろを解す作業に専念している。息が上がってきた、痛くはないけど、なんか、変だ。ずくずく、先ほど服の上から擦られていたみたいに、中が、うずうずする。

「もう、いいかな……」

独り言のような彼の呟きの後に、指が抜けていった。そこでようやく、いつの間にか指が三本も後ろに入っていたんだと気付く。指が抜けたため痛みは消えたが、後にはずくずくとした疼きが残るだけだった。なんでこんなに奥がもどかしいと思うのかわからなくて、痒いようなくすぐったいような感覚に息が上がった。彼は僕の頭をまた撫でて、そうして僕の足を方に抱え上げる。ちらりと視界に入って気付いたが、どうやら下肢の服は取り払われたけれど靴下は履いたままだったらしい。シャツ一枚に下は靴下だけなんて、どんだけみっともない恰好を彼の前で晒しているんだ僕は。
そもそも半裸の状態で彼の前にいるということ自体がすでに恥ずかしくてみっともないのだが、この時の僕のぐずぐすに溶けた脳みそではそんな部分にまで思考回路が回らず、せめて靴下だけでも脱ごうと手を伸ばした。

けれど、できなかった。

「っあぁぁぁぁぁぁっ!」

凄まじい衝撃だった、と思う。背中から脳天まで電撃でも走り抜けたような、そんな衝撃。一瞬のことに頭が真っ白になって視界も白く染まって、次いで襲い掛かった激痛に口から悲鳴しか出てこない。

「っ、ぃ、たぁ……や、」
「ごめんね、ちょっとだけ、我慢して」
「ゃ……ひっ、……いたぃ、よぉ……!」

血でも出てるんじゃないか、とか切れてしまったんじゃないか、とかいろんなことが頭をめぐる。後ろに指とは比べ物にならないほど大きいものが入っているんだと理解して、それが彼自身だということに気がついて、また混乱で頭がパニックになった。

「っ、なんでっ……やだ、ぬいて、いたい、いざくんっ」

なんで、入ってるんだろう。なんで彼はそんなものを僕の中に入れてるんだろう。なんで、なんで。

「ふっ、ああ、あっ!あ、ああ、」

彼がゆっくりと腰を動かしだして、僕は痛みに喘ぎながら彼の背中に縋り付く。さっきの液体のおかげだろうか、痛みは少しずつ和らいできて、それでもまだじんじんと鈍い痛みは感じるけれど、僕はそれよりも彼が奥へと押し入ってくる瞬間に感じる感覚に大いに戸惑った。彼が奥に来る度、先ほどまでのずくずくというじれったい疼きが消えて行って、もっともっと、中の方に入れてほしくなる。ごりごりと彼の性器が腹の内側を行き来する度に性器を直接触れるのとは違う、ダイレクトな刺激も僕の思考回路を溶かしていった。

「、きもちいい、でしょ」

彼が腰を打ちつけながらそう言ってきて、僕はようやく、ああ、これが気持ちいいっていう事なんだと、理解した。

「あ、ぅ、きもちぃ、ですっ……」
「そっか……よかった……」
「ひ、や、あっ!ああ、ぁ、んっ、!」

ぐぷぐぷと、性器を擦られていた時や指を入れられていた時とは比べ物にならないくらいに大きな音がして、けれどもうそれを気にかけられるだけの余裕は残っていなかった。ただただ後ろで初めて味わう過ぎた快感というものに翻弄されて、体を内側からどろどろにされていく感覚に声を上げることしかできない。

「ひっ、やあっ!ぁ、でるっ、やあぁぁっ!」
「っ、今、締まったね、中、」
「ぁあっ!だめ、……まって、まってぇっ!」

びゅくりとまた己の性器から白濁を吐き出した気配がして、けどその余韻に浸らせる暇なんか、彼は与えてくれないようだ。腰を痛いくらいにつかまれてむちゃくちゃに穿たれて、乳首とか性器も手荒く弄繰り回されて、あまりの刺激に本当に意識が飛びかける。舌で乳首を嬲られればまた小さく射精して、それに連動して締まるらしい僕の後ろが気持ちいいのか、何度も何度も乳首を舐められて噛まれて刺激を与えられ続けた。

「ゃだっ、あっ、もっと、ああぅっ!」
「、なに、もっと、してほしいの?」
「ぅあっ!ぁ……もっと、うしろ、おくっ、もっと……っ」
「っはは、みーくんって淫乱だったんだね……知んなかった」

彼が舌なめずりするような気配がして、けど僕はもう与えられる快感に羽交い絞めにされて、気持ちよさを得ることしか頭にない。恥ずかしいとかこんなの異常だとかおかしいだろ、とか。そもそもなんで彼が僕にこんなことをしているのか、とか。そんなまっとうなことを訴える理性はとっくの昔に崩壊して、ただ僕は涙を散らしながら喘ぐだけだった。

何回も何回も吐き出して吐き出されて、もう無理です、と僕が泣き言を言っても止めてもらえなくて、どのタイミングで意識を手放してしまったのかも、もう僕は覚えていなかった。










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