泊まっていきなよ、そう言われて断る理由も無かった僕は素直に臨也君の好意に甘える事にした。夜も遅いし、僕ももう疲れたし。なんていうのはただの言い訳。
本当はもっと、二人でいたかっただけ。

「んっ、いざ、まって……」
「やだ、まてない」

初めて足を踏み入れた臨也君の自宅。その中をじっくりと見渡す暇も与えられずに寝室に連れ込まれ、そうしてベッドに引き倒された。乗り上げてきた臨也君の顔には余裕なんて少しも見受けられなくて、しかもその瞳に灯る仄暗い欲の光に僕の喉は緊張でごくりと鳴る。

「もう何年お預け喰らったと思ってるのさ……いい加減、いいだろ?」
「ぁ、でも……」
「帝人さんは嫌なの?」
「ぅ…………いやじゃ、ないけど、」
「けど?」

恥ずかしい、そう消え入りそうな声で訴えると、臨也君はぷっと吹き出した。僕にしてみたら結構深刻な問題であるそれを鼻で笑われて若干落ち込む。

「帝人さんかわいい」
「かわくない……」
「大丈夫だよ、その内恥ずかしいとか考えてる余裕なんてなくなるから」

さらりとすごい事を言われた気がして臨也君の顔を恐る恐る見上げる。視線が絡んで、そうしてキスが降ってきた。舌を無理矢理誘い出されて絡められて、熱さと恥ずかしさで頭がぼーっとする。その間も臨也君の手は僕のカーディガンとマフラーを邪魔だと言わんばかりに剥ぎ取り、セーターも捲くっていく。

「いっ、ざ、くんっ」
「ん?なに」
「っ、あっ、ん、ぁ……」

そろりそろりと脇腹を撫でていた手が胸のあたりを弄り突起に触れた。先程まで外にいたから当然臨也君の指は冷えていて、冷たいその感触にぶるりと肌が粟立つ。擦るようだった動きがそこを摘む様な動きに変わり、びくんと背中が丸まった。

「ゃっ、あ、いざやくんっ……」
「きもちいい?」
「っ、あぅ、ゃ、だめ、それっ」

かり、と先の方に爪が立てられてまた体が跳ねる。ぎゅっと力いっぱいシーツを握り締めると、「そんなに力むと意識飛ぶよ?」と苦笑交じりの声が降ってきてまた恥ずかしくなった。
胸から離れた腕が僕のズボンと下着をずり下げ、性器に触れる。さすがに羞恥心には耐えられなくて顔を思いっきり背けると、首筋に舌が這わされてひ、と喉の奥から変な声が出た。

「あっ、うっ、やっ、まって、」

ぴちゃぴちゃと首筋から耳たぶにかけてを舐め上げながら、自身をゆるゆると扱かれる。押しのけようと臨也君の胸に腕を突っ張るも、力が全然入らなくて逆に自分でびっくりした。

「あぁっ、やっ、んっ!あ、うっ、っぁ」

途切れ途切れの変な声に死にたくなる。恥ずかしい、何だこの声。口元を両手で抑えるとそれすらも剥ぎ取られ、片手で両の手首をベッドに押さえつけられた。

「抑えないでよ……全部、聞かせて」
「いざ、くんっ、やあぁっ!あ、ぁうっ!」

ぐちゃぐちゃと先走りが溢れてきた自分のそれにまたどうしようもない恥ずかしさが湧き起こる。びくびくと臨也君の手の動きに翻弄されっぱなしの僕は、彼の目にはどう映っているのだろう。恥ずかしすぎる自分の姿を想像して、ここから消えたくなった。

「帝人さん、かわいい」
「っ、ふぅ、あ……」

手が自身から離れ、さらにその奥に触れる。びくりとして無意識に力の入ったそこを、ぐにぐにと指の腹で押しながら臨也君が撫でまわしてくる。なんか、すごく、変な感じだ。

「いざっ、や、くん……」
「なに?」
「あの、やっぱり、やめ、」
「ないよ、俺は」

ぐち、と勢いを付けて指が一本中に潜り込んだ。その言いようのない気持ちの悪さに声にならない悲鳴が喉奥から飛び出す。まって、との制止の声も虚しく、指はそのまま中まで無遠慮に押し込まれた。

「くっ……ぁ、うぅっ……」
「平気だから帝人さん、力抜いて」

なんとか呼吸を繰り返す。吸って、吐いて、吸って、吐いて。それの繰り返し。そうやく指が馴染んだ頃、性急に二本目が突き立てられた。中を広げようと蠢くその感触が怖くて、体がベッドの上で跳ねあがる。

「ぁっ、ひゃ、やぁっ……んんっ、あ、はぅっ」

三本目が入ってきて、苦しさに呼吸もままならない。なんとか酸素を求めようと口を開いた時、中で蠢いていた指がお腹の内側辺りを強く抉った。

「っあぁあっ!」

まるで電流でも体に流されたようだった。凄まじい衝撃に一瞬、目の前が白く弾け飛ぶ。スパークした視界が正常になる頃、臨也君は僕の顔を覗き込みながら額の前髪を払ってくれた。

「大丈夫?」
「っは、あ……」
「なんか顔色良くないね……やっぱり止めとくか、」
「え……」

帝人さんの体の方が大事だから、そう言いながら僕の頭を撫でる臨也君は本当に、ずるい。止めてやれない、止めないって、さっきそう言っていたのに。余裕なんてもの何処にも残ってないのなんかその顔を見ればすぐに分かるのに。

「……へいき、だから、」
「けど」

確かに僕の体力はこんな前戯如きで意識を飛ばしかけてしまうくらいに僅かではあるし、体調も良くないのは事実だ。けど今止めてしまったら臨也君が辛いのは分かりきっている。受け入れたいと思ったのだ、彼の全てを。それに僕だって、臨也君と繋がりたい。心も、体も。

「……じゃあ、挿れるよ」

指が抜かれ、代わりに押し当てられた性器の熱さに体が震える。解放してもらった手でシーツを握り締めながらこくこくと頷いた。にち、肉が中に沈み始める。

「んっ……くっ、あっ」
「っ、力抜いて、あんま力まないで」

腰を抱えられ、ゆっくりと熱が内部を満たしていく。痛みと苦しさは半端なかったが、不思議と気持ち悪さとか嫌悪感はもう湧いてこない。いや、単に思考するだけの余力がもう無くなってきただけなのかもしれないけれど。

「どうっ、帝人さん……全部はいったよ」

見上げた臨也君は、笑っていた。愉悦に浸る笑みではなく、幸福に満ちた笑みだった。なんだかそれだけで僕も嬉しくなる。両腕を伸ばしてキスをせがめば、唇に優しい口付けが落とされた。口を開いて、舌を絡めて、深く深く繋がって。

「んっ、んんんっ、」
「、みかどさん、」
「っは、ぁ……あぁっ、やっ、あんっ、ん!」

先程指で擦られた箇所を熱い肉棒で擦られれば、視界がちかちかと白く点滅する程に体が刺激に震えあがる。ここでようやく、僕はこれが快感と言うものなのだと理解した。
女の人は大変だな、とぼんやりと思う。こんなにも苦しくて辛くて痛くて、感じられる快感も激しい濁流のようで純粋に気持ち良さだけを感じられないのだから。受け身に回ってみて、初めて女性の大変さというものが分かった。

「ゃっ、いざ、くんっ、だめ、やだっ!もっ、だめ!」
「俺も……一緒に、ね、」
「っ、あくっ、ひゃぁっ、あぁぁっ!」

また視界がスパークした。瞼の裏で白い光が弾けて右も左も上も下も前も後ろも分からなくなる。ぜえぜえという二人分の荒い呼気と青臭さが、臨也君とセックスしたんだという事実を裏付けているようだった。

「、みかどさん、ごめん」
「え……っ、あ、うそっ、」

ぐち、とまた臨也君が腰を抱え動き出す。

「一回だけじゃ、全然たりない」
「やだ、も、むりぃ……」

制止の声虚しく、結局その晩は臨也君の気のすむまで散々良いように扱われてしまった。


(若いって、いいなあ……)










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