ぱん、と乾いた発砲音の直後、赤いひな壇に並べられた景品の内、一番大きなぬいぐるみがぽすりと落下した。その瞬間、屋台の周りを取り囲むギャラリーから上がるおお、というどよめきと歓声。
射的屋のおじさんはまさかあのぬいぐるみが落とされるとは思わなかったのか目を丸くしていて、対する臨也さんは構えていた射的用の銃を台の上に置くとにっこりと笑った。

「これ、外れるまで何回でも撃っていいんだっけ」

瞬間、射的屋のおじさんの顔は可哀想なくらいに青褪めた。




「……どうしてくれるんですか」
「なにが?」

屋台が立ち並ぶ境内を歩きながら、僕は若干困り果てながら隣を歩く臨也さんを見上げる。臨也さんが片手にぶら下げている袋の中には先程の射的屋で獲った景品がぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、入りきらなかった例の大きなぬいぐるみだけ僕が抱えていた。

「あの射的屋さんですよ。僕ら、来年から出禁になっちゃったじゃないですか」
「ああ……さすがに全部落とすのはやりすぎちゃったかな」
「射的屋のおじさん泣かすなんて、やりすぎです」

まだまだ祭りの途中だというのに、景品切れによって店を畳まなければならなくなったおじさんの姿を思い出して僕は肩を落とした。

「これで二軒目ですよ……出入り禁止喰らったの」
「あれ?なに、帝人君前科持ちなんだ」

意外や意外と言わんばかりに、臨也さんはわざとらしく驚いて見せる。先程の射的の後に買ってもらったフランクを食べながら、人の群れの合間からちらりと背後を見遣った。

「……今通り過ぎた型抜き屋さん」
「型抜き?ああ、あれね。画鋲で型抜いて綺麗に出来たらお金貰えるってやつ」
「はい。夏はそれでお小遣い稼ぎしてたんですけど……ある時もう来ないでくれって店主さんに泣きつかれてしまって」
「……帝人君一体いくら荒稼ぎしたのかな?」
「……その日に稼いだお金でパソコン買いました」
「…………」

そりゃ出禁になるわな、といった視線を寄こされてしまい僕は口を噤んだ。

「帝人君って変なところで器用なんだね」

フォロー、ではなく純粋な嫌味を吐く臨也さんを恨めしげに睨みつけると、何故か笑いがら頭をぐしゃぐしゃと掻き回される。

「っ、なにするんですかっ」
「なんとなく」
「なんとなくでやらないでくださいっ」
「ごめんって……あ、そうだ帝人君」

はい?
返事をするよりも先に腕を引かれて、屋台の裏の方へ引っ張られる。祭囃子と喧騒が遠のいたと思ったら、暗がりの中で木に背中を押しつけられた。

「い、……」

名前を最後まで呼ぶ事も出来ずに、口を塞がれた。
なにで、なんて愚問だ。口腔内に入り込んできた熱に、考えるまでも無くキスされているんだと分かった。視覚ではなく感触で判断したのは、単に辺りが暗くて見えなかったからだ。

すぐ傍には屋台もあって祭りを楽しむ人もたくさんいるというのに、臨也さんは体を離そうとしない。角度を変えて与えられる口付けは深くなるばかりで、僕はぬいぐるみを抱えているために彼の胸を押し返す事も出来ない。
耐えるように、ぬいぐるみを強く抱きしめた。

「……っは、いざやさんっ」
「みかどくん、」
「は、い……?」

近い距離のまま、暗がりで赤だけが浮かび上がった気がした。

「これ、大事にしてよね」

そういってぬいぐるみに視線を落とした後、臨也さんはぬいぐるみごと僕を抱きしめた。


蒸し暑い、でも過ごしやすい、夏の夜の事だった。











第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -