夜という事も相まって、川辺はとても涼しかった。
水の匂いが立ちこめる、ごつごつとした岩や細かい石だらけの河川敷。少し歩くたびにに足を取られて僕は何度も転びかけるけど、その都度臨也さんが腕を引っ張って支えてくれる。五回目くらいで、めんどくさいから背負ってやろうか?と割と真剣な顔で言われてしまった。さすがに恥ずかしいので、それは謹んで丁重にお断りしたけれど。

「もうすぐ始まるみたいだね」
「はい、向こう側で準備が始まってるみたいですね」

川を挟んで向かいの河川敷にはたくさんの人が集まっていた。テントが張られ、大きな花火用の筒が何本か設置されている。作業に当たっているのは皆地元の人達で、この時期の花火大会は毎年の地域行事の一つであった。

向かい側の河川敷にも、こちら側の河川敷にも、土手の上にも、花火を見るためにたくさんの人たちが集まってきている。僕と臨也さんはあまり目立たない場所に陣取って、椅子に出来そうな大きな椅子に腰を下ろして開始を待っていた。

「花火なんて、見たのいつ以来かなあ」
「あれ?東京でも花火大会ってありますよね」
「花火よりもそれを見ようと群がる人間の方を見てたからね。だからあんまり花火見た記憶ってないんだよ」
「そ、そうですか」

花火大会の楽しみ方を大きく間違っているとは思ったが、口にはしなかった。臨也さんらしいと言えば、らしいけれど。

「お、そろそろ始まるみたいだね」

向こう側の河川敷で人が大きく動き始めた。着火の役割を担う人以外が筒から離れていく。
隣に座る臨也さんが、心なしかわくわくと目を輝かせているような気がして僕はまじまじと臨也さんの横顔を見つめた。

「あの……もしかして、花火楽しみなんですか?」

これでうん、って肯定の返事が返されたらどうしよう。花火が楽しみだなんて、なんか子供みたいだ。いや、僕だって楽しみだけど、なんていうか、臨也さんには、花火とかそういうイベントとか催しとかを楽しみにするようなイメージが無いというか、そんなタイプの人間ではないというか。
とにかく、僕は花火を楽しみにしている臨也さん、を頭の中で想像する事が出来なかったから、直後に返された返答に大いに面喰う事になった。

「そりゃあね、楽しみだよ」
「そ、そうですか」

……とてもいい笑顔で肯定されてしまった。そんな笑顔もかっこいいと感じてしまう自分が気恥ずかしい。
しかし、次の臨也さんの一言で、今度は僕の羞恥心の方が大いに揺さぶられる事となった。

「帝人君と一緒に見れるんだ、楽しみに決まってるだろ」




ドーン、と大きな音がして、夜空が一気に明るく照らされる。その一発を契機に次々と花火が上がり、まさに大輪の花を夜空に咲かせた。

(……よかった)

今なら僕の顔が赤い理由も、花火の光のせいに出来るから。

「ああほら、始まったよ帝人君!」

いもより若干高い、楽しげな声で臨也さんがそう言った。
折角の花火だというのに、僕は暫く顔が上げられなかった。










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