「臨也さん、スイカ食べましょう」

縁側に出てうちわを煽いでいた臨也さんの背中に声をかける。暑苦しそうな表情で振り返った臨也さんは僕の抱えている大ぶりのスイカを見て、微かに目を見開いた。

「お帰り帝人君……どうしたのそのスイカ」
「近所のおばさんがくれたんです。お兄さんと一緒に食べなさい、って」
「なに、俺達兄弟って思われてんの?」
「僕もよく分かんないんですけど……そうみたいです」

近所と言ってもやや距離のある一軒家、朝顔が綺麗に咲いている家に住むおばさんから頂いた大きなスイカは、今の今まで氷水につけられていたらしくとても冷たい。抱えている腕やお腹が冷たいと感じるほどで、これなら今すぐに食べられそうである。

「今切ってきますから、待っててくださいね」

縁側から居間へと戻って、居間と扉一枚で隣接している台所へよろよろしながら進む。まな板の上にスイカを置いて包丁を取り出して、よし切ろう、と意気込んだ所で包丁を持っている手を掴まれた。びくりとするが、誰だかは分かりきっている。この広すぎる立派な日本家屋には、今現在僕と臨也さんの二人しかいないのだから。

「臨也さん……?」

どうしましたか?と振り返り、僕よりも高い位置にある彼の整った顔を見上げた。臨也さんは相変わらず暑苦しそうな、気だるそうな顔をしていたが貸して、と呟いた声だけはやけに力強い。そのまま包丁を奪われる。

「あの……」
「君はあっち行ってて。俺が切るから」
「でも、」

食い下がると、深々とため息を吐かれた。

「君、こんなでかいスイカまともに切れんの?」

僕は何も言い返せなかった。




臨也さんが綺麗に切り分けてくれたスイカに塩を振って、一口頬張る。文句の付けようがないくらいに美味しいそれを食べながら、美味しいですねと隣に座る臨也さんに笑いかけた。
縁側から足を投げ出してぶらぶらと揺らす。臨也さんもさっきよりは少しだけ、涼しげな顔で頷いた。

「……このスイカくれた近所のおばさんって、帝人君の知り合いなの」
「はい。元々は伯母さん……あ、この家の持ち主ですけど、伯母さんのお友達なんです。僕、毎年夏にはここに遊びに来てたから、自然と顔を覚えられちゃって。それからはこっちに来るたびに良くしてもらってるんです」
「ふーん……」

スイカの種を爪楊枝で取り除きながら僕はそう答えた。臨也さんの返事はとても素っ気ないもので、自分から聞いてきたくせに興味の無さそうな声音なのは、単に暑いからだろろうか。

「……で、その帝人君の伯母さんはいつ戻ってくるの?」
「え?」
「この家、伯母さんの家なんだろ。赤の他人の俺がずっと居座るのも悪いじゃない」
「……大丈夫、だと思いますよ?伯母さんが長い事家を空けるのって、よくあるんです。それに、一応夏休みには臨也さんとこっち来るっては言ってありますし……」
「なんて言って?」
「……はい?」

質問の意図が分からなくて、種の除去作業をしていた手を止めて隣に目をやった。臨也さんは先程までの気だるそうな表情が嘘のように、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。その笑みの意味も分からなくてますます首を傾げると、だーかーらー、と彼の長い指がこつんと僕の額を小突いた。

「伯母さんに、俺の事なんて紹介したの?って事」
「は、え……?」
「友達?兄弟?それとも……恋人?」

最後の単語だけやけに低い声で囁かれて、僕の顔は一瞬にして熱くなった。冷たいスイカを食べた事で下がったと思っていた体感温度が一気に急上昇する。

「な、なに言って……」
「別に。ただ、そう言ってもらえたんなら嬉しいなあと思っただけ」

臨也さんは楽しげにそう笑ってスイカに視線を戻した。そのまま何事もなかったかのように食べるのだから、大人って本当にずるいと思う。


腹いせに、臨也さんの事を"僕の大事な人"と紹介した事実については、一生黙っていようと思った。










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