照りつける日射を遮るのは、プレハブの頼りない屋根だけだった。板張りの壁が正面以外を囲む、相当年季の入った停留所。の、待合室。屋根は所々穴の開いたプレハブのみ。
そんな薄いプレハブの屋根が作りだした影の下、ベンチに腰をかけて僕らは一時間に一本のバスを待つ。

「暑いね」
「そうですね」
「でも都会よりはましかな。アスファルトじゃないだけ。あと車も多くないし木はたくさんあるし」
「そうですね」
「……帝人君大丈夫?さっきからそうですねしか言ってないけど」
「喋るのも……億劫なんです」

暑さに体力ほとんどを奪われて、ぐったりとベンチの背もたれに体を預けながら答えると、臨也さんは眉を顰めた後唐突にタオルを僕の顔に押し付けてきた。

「ぶっ」
「汗すごいね……そんなひょろひょろの体してるからすぐバテるんだよ」
「……僕、そんなにひょろひょろですか?」
「うん。何か今にもぶっ倒れそう」

言葉の端々には嫌味のような響きが含まれているのとは対照的に、僕の額や首筋の汗を拭う手つきは酷く優しかった。
最近なってようやく気付いたのだけど、臨也さんの嫌味は心配の現れだ。もちろんそうでなくてただの嫌味だけの時もあるけれど、この場合はそうだと思う。まだ断言しきれるほど、臨也さんの事を知っているわけではなけれど、多分そうだ。むしろそうだと思いたい。

「ほら、タオル首にかけときな。あと水」
「あ……別に、喉は乾いてないので、」
「馬鹿、飲んどけっての。そんだけ汗かいてんだから補給しないと、ほんとぶっ倒れるよ?」

無理矢理水筒を押し付けられて、割と本気で心配させてしまっているのが分かったから僕は水筒を素直に受け取った。蓋を開けて口を付ける。喉は乾いていないはずだったのに、一度水を喉に通すと渇きを思い出したみたいに僕の体は水分を欲し始めた。そのままごくごくと半分くらい、中身を飲み干す。

口元を拭って、蓋を閉める。水筒を膝の上で握り締めたまま、ぼんやりと陽炎が蠢く影の外の地面を見つめた。

「……バス、こないですね」
「そのうち来るよ。こんな田舎じゃ渋滞する事もないだろうし」

会話はそこで途切れた。喉は潤ったのに、やはり喋るのが億劫だ。それもこれも、全部この暑さのせいに他ならない。意識が遠のきそうなほどの、暑さ。

「帝人君、倒れないでよ」
「倒れませんよ……」
「背負ってくのめんどいし」
「その心配ですか……」

不意に臨也さんが立ちあがる。影の外に出て左の方を見ながら呟いた。

「バス、来たよ」

携帯で時刻を確認する。剥がれかかった時刻表の時間より十五分も遅れての到着だった。










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