臨也に発破かけてやった次の日の事だ。
正直臨也の帰りに合わせて夜更かしをしちまったわけだからとてつもなく眠い。けれども朝食を作ってやらなければならない手のかかる弟が二人もいるわけだから、俺はのそのそといつもの時間に起床して顔を洗ってエプロンを身につける。

結局、昨晩はどうなったのだろう。臨也は何処か決心したような顔つきで帝人の元へ行ったみたいだから、何かしら進展はあったのだと思う。取り立てて言い争うような声も聞こえて来なかったから良い方向に状況が好転したのだと信じたい。
むしろこれでどうにかならなかったらそれこそ深刻な問題だ。俺も長男として本腰を入れて動かなければならなくなる。
本当に、世話の焼ける弟達だ。

と、そんな心配をしつつ目玉焼きを作りみそ汁を掻き混ぜていると、とてとてと階下に三男と二男がそろって起きてきた。帝人が俺に起こされる前に起きるなんて珍しい。いや、臨也が一緒だったから臨也の方に起こされたのかもしれない。(ああ見えて以外に寝起きが良いのは臨也の方だ)

「おはよう」
「おはようございます……」
「……おはよう」

声をかけると珍しい事に帝人からだけではなく、臨也の方からも返事が返ってきて驚いた。
臨也はのろのろと洗面所の方に行ってしまったが帝人はテーブルに付く事も無く、みそ汁を茶碗によそう俺の元へやってきた。その首元に赤い痕が付いているを見つけて、どうやら状況は俺が思っていた以上に飛躍して進展したのだと悟る。
正直複雑な気分ではあったが、それを顔に出す事はせずに努めて冷静に振舞った。

「どうした、帝人」
「あの……やっぱり、僕、一人暮らしは、その、見送ろうかなあって」
「そっか。ならちょっと安心だな」
「え?」
「お前が家に居ないは寂しいからな、俺としては」
「あ……その、……」

何処か歯切れの悪い様子の帝人に、俺はみそ汁をよそう手を休めずに末っ子を振り返る。帝人は俯いていたが、すぐに顔を上げた。そしてはにかんだような可愛らしい笑顔を俺に見せる。

「ありがとうございます、兄さん」

びちゃびちゃと、茶碗にわけようとしていたみそ汁がフローリングの上に零れる。

帝人は照れ隠しかそのままキッチンから出て行った。俺は暫く硬直して動けない。
初めて、だ。家族になってから、帝人に"兄さん"と呼ばれたのは、初めてだった。

(いやいやいや、落ち着け俺、こんなところで硬直してる場合じゃゃない)

にやけそうになる顔を必死で堪えて、とりあえず零したみそ汁を拭こうと雑巾を探す。そこに丁度よくやってきた臨也は俺の惨状を見て盛大に眉を顰めた。

「……何してんの」
「いや、これはその、事故だ」

下手な言い訳だと自分でも思った。だが臨也はそんな俺の揚げ足を取るでもなく、何処か罰の悪そうにあーと呻きながら頭を掻いている。こいつのこんな様子も酷く珍しい。一体何を言い出すのかと待っていると、臨也はこちらに視線を合わせずにぽつりと口を開く。

「まあその……今回は礼を言っとくよ。ありがとう……兄貴」

かこんと、持ったままだったみそ汁茶碗がフローリングの上に落下する。

臨也は照れ隠しかそのままキッチンから出て行った。俺は暫く硬直して動けない。
初めて、だ。生まれてから、臨也に"兄貴"と呼ばれたのは、初めてだった。

(……落ち着け、俺)

とりあえず零したままのみそ汁も落ちたままの茶碗もそのままに、正気を取り戻した俺はキッチンを出た。
臨也と帝人はリビングのテーブルに何処か気恥ずかしい様子で座っていた。そのまま二人にずかずかと近寄る。


そして、照れて顔を真っ赤にする帝人の戸惑いも嫌がって逃げようとする臨也の抵抗も全部抑え込んで、俺は可愛い弟二人をまとめて抱きしめたのだった。











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