さすがにちょっとムードもロマンもあったもんじゃないかなあ、と帝人君をトイレの個室に連れ込んでから思った。

付き合いだしのは二週間ほど前だ。正式に帝人君と恋人という関係になった日の三日後にキスは済ませたし、五日後にはディープキスもしてやった。それでも今まで二週間、キス以外に手を出さなかったのは俺なりの譲歩と言うか我慢と言うか、気遣いだ。
帝人君はその純粋そうな外見を全く裏切らない、恋愛初心者だった。キスはおろか異性と手を繋いだ事もないらしい。故に、彼はいつも俺の行動にびくびくと怯えていた。それが恐怖ではなく緊張からくるものなのだという事は分かっていたが、その様が小動物の様で微笑ましく感じるのと同時に、貪りたいとう欲求も俺は感じていた。
おどおどと俺を見上げる大きい瞳だとか、触れようと伸ばした俺の腕にぴくんと肩を震わせる様子だとか、緊張と甘さと嬉しさを含ませた声音で「折原先輩」と紡ぐ唇だとか、すぐに赤く染まるその頬だとか、挙げたらきりがないくらい、竜ヶ峰帝人という存在は俺の本能の奥の奥に潜む獣のような劣情を煽る。

それでも我慢してやったのは先程述べたとおり、俺なりの気遣いだ。恋愛初心者でキスはおろか手も繋いだ事のない純粋純心純朴な彼のために、ゆっくり進んでやろうという普段の俺にしてみたらありえない気遣い。
そんな俺の気遣いをたった二週間でぶち壊したのは、他でもない帝人君本人だ。ぶち壊したと言っても別に彼が何かしたわけじゃない。本音を言うなら俺の理性が限界だったというだけの話だ。
俺の姿を見つけて嬉しそうこちらに走り寄ってきた彼は、照れたようにはにかんだ。おずおずと俺を見上げるその上目遣いに、俺の中の何かが弾ける。

咄嗟だった。まだ授業もあるというのにお構いなしで彼の腕を引っ掴む。そのままずかずかと廊下を進み、人気の少ないトイレに押し込んだ。一番奥の個室に入って早々鍵を閉める。帝人君はびっくりして瞳をまん丸に見開きながら俺を見つめていた。
ああ、可愛いなあ。無防備な表情がたまらない。赤らんだ目元に唇を寄せる。驚いた彼が何か言葉を発する前にキスをした。舌を入れて手加減せずに口付けを深くすると、鼻から抜けるような声がする。

「んっ、ふ、……んんっ!」

キスの合間に手を滑らせて腰を撫でる。彼の体が大袈裟にびくついて、そこで一旦唇を離した。互いに息は荒い。体裁とか体面とかを気にする余裕は、無かった。

「……帝人君、したい」
「へ……?」
「いい?」

至近距離で囁くと途端ぼっと火が付いたように顔が赤く染まる。帝人君は口をぱくぱくとさせながらも拒絶の言葉は言わなかった。いや、言おうとしたのだが驚きのあまり言葉にならなかったのかもしれない。どっちにしろちゃんとした否定をしなかった時点で、イコール肯定と俺は受け取らせてもらう。理不尽だって?はは、むしろ誉め言葉だよ俺にとっては。

そして便座に腰掛けて膝の上に引き倒すように帝人君を乗せた後で、俺は冒頭のような事を思ったわけだ。折角の彼の初めてを、こんな学校の男子トイレなんかで済ませてしまっていいのだろうか。彼は女の子ではないからあまり気にしないかもしれないが、初めてがトイレの個室の中だなんてちょっと可哀想な気もする。
けれどここで止めてやる、もしくは場所を移してやるという選択肢が浮かんでくるほど、俺は余裕があったわけではない。結果、可哀想だなと考えるだけ考えて続行決定。帝人君のブレザーとシャツのボタンを全て外して、晒された肌に掌を這わせる。

「っ……」
「細いね、ちょっと不健康すぎるかも」
「あっ……」

そろりと突起をなぞると小さいながらも甘い嬌声が上がって、帝人君は慌てて口を掌で覆った。今のが自分の口から出た声だなんて信じられないのだろう。俺はそんな初々しい様子に満足しながら唇を寄せる。ひっ、と押さえきれなかった悲鳴が漏れた。片方の突起を口に含みながら、唇で挟む様にして擦り合わせる。もう片方は指の腹と腹の間で擦り潰すようにして愛撫した。

「っぃ、あっ……うぅっ……」

びくんと丸まる背中。口を掌で覆って必死に声を押しこめながら、帝人君はぶるぶると体を震わせた。まだ胸にしか刺激を施していないというのに、どうやら彼には強すぎるらしい。歯と歯で扱くように軽く乳首を甘噛みすると、ぎゅっと髪の毛を掴まれた。

「っあぁ!……ひ、う、あ、んぅっ」

見開いた目からぽろぽろと涙が落ち始めた。乳首だけでこの調子じゃこの先が思いやられるなあとちょっと苦笑い。けれど彼の泣き顔は、正直すごくイイ。かなりくる。
ぞろりと舌で乳首を舐めてから口を離す。途端帝人君の体は弛緩して力が抜けた。はあはあと荒く艶っぽい息を吐きながら俺に凭れてくる。声を抑えるために口を覆っていた手は唾液で濡れていて、多分堪えるために歯を立てたのだろう歯形がついていた。

「胸、気持ち良かった?」
「ひぃっ……」

耳に息を吹きかけながら、指先で胸の先端、乳首の表面だけをなぞる。たったそれだけで帝人君はまた涙をほろりと零して震えた。可愛らしい悲鳴付きで。

「今からそんなんじゃこの先大変だよ?もっとすごい事、するんだからさ」
「あ、ゃ……まって、」

制止を無視してベルトに手をかける。力の入っていない彼の抵抗は可愛いもので、ベルトを緩めると邪魔なスラックスと下着をさっさと取り払った。彼の片足に引っかかるそれを払いながらそっと自身に触れる。キスと胸への刺激で反応を示すそこは既に熱を持ち、触れた瞬間どくりと波打った。

「やっ……ん、んんんっ、ふぁ、あぁっ!」

声を抑えようと必死に指を噛んでいた帝人君だったが、強く粗めに自身を扱くと堪え切れないのか甲高い嬌声を上げた。自慰の経験もあまりなさそうな子だから、直接的な快感を味わうのは初めてなのかもしれない。それならばたっぷり感じさせてやろうと、嬲る様に手を上下させる。

「あぁぁっ!ひ、や、ああっ、ぅあああっ!」

俺の学ランを握りながら帝人君は必死に喘ぐ。肩に顔を埋めて快感に体を強張らせ啼く姿は、超が付くほど色っぽい。彼を乱しているのが自分だと考えるだけで酷く興奮した。

「っ!?な、に……」
「後ろ解すんだよ……じっとしてて」
「や、うそ……やめっ……!」

先走りの滑りを借りて自身を扱いていた手をそのまま後ろに持っていく。秘部を緩くなぞると帝人君の体が大袈裟に固まった。ぎゅっと体を縮こまらせて俺の胸に顔を埋めてくる。怖がっているのは見て分かったが、気付かないふりをして中に指を潜り込ませた。またさらに彼の体に力が入る。

「っ、ちょっと、力抜いてよ……入らない」
「……っ、だ、って……」
「痛いの嫌だろ?良くしてあげるからさ、今は我慢して」

言い聞かせるようにすると暫くの沈黙の後、帝人君は頷いて本当にわずかだが力を抜いてくれた。基本的に素直でいい子なのだ、この子は。人から頼まれると断れない、お願いされるとその通りにしてしまう。馬鹿みたいに素直で、お人好し。まあそこが気に入っている部分の一つではあるんだけど。

なんとか指を出し入れしながらきつい中を広げていく。二本目を入れ三本目を入れた頃には最初と比べて大分マシになっていたが、それでもやはり窮屈だ。その間帝人君はずっと顔を俺の胸に埋めたままでこちらを見ようとしない。多分必死に痛みと快感と羞恥に耐えているんだろう、声も出さずに健気な子だ。

「いれるよ……」

指を抜き取り出した自身をあてがう。びくりと一瞬だけ震えた体は、相変わらず硬い。秘部に熱を押し込めようと腰を進める。先端が微かに中に潜ると、唐突に帝人君が顔を上げた。

「せんぱ……やだ、こわい……!」
「怖くないって……我慢して」
「やぁ……いやぁっ!」

指までは我慢できたらしいが、さすがにそれ以上の質量を持つ熱には我慢できなかったらしい。恐怖のあまりひっく、と喉を震わせて本格的に泣き始めてしまった帝人君に、俺は心の中だけで彼を詰った。

(だから、泣いたって煽るだけだっつーの)

泣き顔がどれだけの破壊力を持つのか、本人に自覚が無いとろが余計に厄介だ。ちっ、と舌打ちをして強引に彼の腰を掴んで落とす。いやいやと頭を振って嫌がる帝人君の意思とは裏腹に、体は貪欲に俺を飲み込んでいった。中の熱さと締め付けは半端なくて、はぁ、と熱いため息をつく。

「……ほら、ちゃんと全部入った」
「ひっ、あ、あ……」

帝人君も息を整えるので必死らしい。初めて体の奥に異物を受け入れた感触は、きっと快感だけを齎しているわけではないだろう。痛い?と聞くと彼は首を横に振った。苦しい?と尋ねると今度は縦に振る。とりあえず痛みはないようで安心した。初めてだし、あまり痛い思いはさせたくない。

「動きたいんだけど……いい?」
「え……あ、だめっ、です……」
「どうして」
「だっ、て、……こわい、」

またそれか。まあ確かに、自分の中で何かが蠢く感触は恐怖以外の何物でもないだろう。でもそれだと話が進まないんだよね。正直俺だって結構限界だし。初々しい所は確かに可愛いけれど、ここまで来るとちょっと困る。帝人君の中は思った以上に良くて、本当なら今すぐに動きたい。めちゃくちゃに突き上げて乱してやりたい啼かせてやりたい。いっそ壊してやりたい。
けれどここで無理矢理してしまったら強姦みたいで嫌だ。どうしたもんかと考えて、とりあえず帝人君が楽な姿勢を作ろうと彼から体を離す。くっつかれたままでは動けない。彼の身を案じて、気遣っての行動だというのに。この子ときたら。

「……やっ!」

離れかかった俺の体を引き戻すように、帝人君はぎゅっと抱きついてくる。先程よりも強く、必死に縋りついて。


「はなれ、ないで……くだ、さいっ」


(っ――――!)

これには、きた。

思わず理性を手放してしまうくらいに。

「――ひっ!?……やぁっ!やだっ、せんぱいっ!」
「うるさいっ……君が、悪い」
「あ、あぁぁっ!や、いゃぁぁ!」

今までのゆっくりとした愛撫や前戯が嘘のように、俺は彼の細い腰を掴んで力任せに揺さぶった。突然の動きに帝人君の口から悲鳴じみた嬌声が上がる。

けれどこれは不可抗力であって悪いのは俺じゃない。明言しておく。誰だってあんな顔で見上げられたら理性の一つや二つ、簡単に飛ばしてしまうだろう。それくらい、凄かった。
涙目で、顔は赤らんで、口の端からは唾液が溢れていて、そして震える体で離れるなと懇願して縋りつく。
ああもう可愛いなんて言葉じゃ収まらない。愛しい、溢れるのはどうしようもない愛しさと、そして獣のような欲求。

彼の全てを貪りたい。犯して啼かせてめちゃくちゃにして、抱き潰したい。そんな狂気じみた、欲求。

「やぁっ!こわっ、……せんぱ、こわいっ!」
「怖い?気持ちいいの間違いだろ、」
「ひ、あっ、――――あうっ!?」

帝人君の声が変わる。彼もびっくりしたように眼を見開いていて、俺は口の端を釣り上げた。先程と同じ場所を突き上げる。

「ふぁっ!あ、ゃうっ……ひぃっ、」
「ここ、良い?」
「っあ……んっ、やだっ、そこだめっ……!」

ようやく見つけた前立腺。そこばかりを重点的に攻める。そうすれば先程よりも酷く甘ったるい声で帝人君は啼いてくれた。相変わらず俺の学ランを指が白くなるくらい強く掴んで、ぎゅうぎゅうと縋りついてくる。胸に顔を埋めてぼろぼろ泣きながら喘ぐ姿にどうしようもなく興奮して、らしくもない自分を嘲笑った。

「ふぁっ……ぁ、あぁっ!あぁっー!」
「っ、みかど、くん」

ぎゅうと丸まる背中を抱きしめる。びくびく震える彼はもう限界が近いのだろう。口からはひっきり無しに悲鳴が飛び出して、多分ここが学校のトイレっていう事も忘れているんじゃないだろうか。
泣きながら喘いで、必死になって俺に縋って。俺の前で、俺の手で乱されて。

「んあっ、やぁ、ひゃぁぁっ!」

びくんと一瞬、帝人君の背中が反り返る。そしてそのままくたりと体が俺の方に傾いできた。達したらしい。腹部に手をやると飛び散った帝人君の精液で服がれてしまっている。手に絡めて舐めると青臭さが口に広がった。帝人君はそんな俺の行動にも気付かずに、ただ瞳を閉じてはー、はーと苦しそうに呼吸を繰り返している。先程まで俺の学ランを掴んでいた腕は力が入らないのか、だらんと垂れさがっていた。
明らかに憔悴し切った様子の、帝人君。

(ああ、どうしよ)

全然、犯し足りない。

「――――ひぃっ!?」

再び下から突き上げると驚愕に彩られた瞳が俺を見上げる。泣き顔もいいけど、怯えた顔もいいなあ。すんごいそそる。

「もっと、いいよね?」

何が、なんて無粋な問いを帝人君はしてこなかった。ただ、彼は俺の腕の中で一度震えてからおずおずと背中に腕を回してくる。

(もっと、もっとだ)

初めての彼を気遣う気持ちは、この時の俺にはとうに無かった。
あるのはただの欲求。

この子の身体を貪ってめちゃくちゃにして犯して犯して抱き潰したい。もうやめてもういやだと懇願するまで、いっそ彼が壊れてしまうくらいに。

俺は欲求に逆らわなかった。そのまま身を委ねる。
そうして帝人君の体に再び牙を剥いた。









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