「ほら、次は足出して」
「はい……」

擦り剥いた膝に消毒液をかけられ、痛みに眉を顰める。しかし折原先輩はそんな事を気にもせず、ガーゼを押し当ててそのままぐるぐると包帯を巻いていった。擦り傷如きに、これは少し大袈裟すぎるんじゃないだろうか。

「あ、の、」
「なに」
「えっと……表彰式は出なくてよかったんですか?」
「どうでもいいよ、俺は最初から結果なんて気にしてないし。それより君の体の方が大事に決まってるだろ」

怒っているような不機嫌顔で不意打ちのようにそんな事を言われた僕は、は?と先輩の顔をまじまじと見つめた。先輩が、直球でこういう事を言ってくるなんて、実はとても珍しかったりする。

「いや、でも、大した事ない怪我ですし」
「大した事ない?……君はさ、俺を怒らせたいの」

あ、まずいと本能が危機を察知する。
先輩は、多分本気で怒ってる。だって声がいつもと違う。滅多に聞いた事は無いけれど、本気で怒っている時の先輩の声は驚くほど低くて、底冷えするような鋭さを持っているのだ。
ぎしり、と僕が腰掛けていたベッドに体重がかかる。顔を上げると、やっぱり本気で怒っているらしい先輩がベッドに体を乗せてきた。そのまま肩を押されて、ぼすりと柔らかいシーツの上に倒れる。

「せっ、せんぱい、ここ保健室ですよ……?」
「知ってる」

そのまま覆い被さる様にして体を抱きしめられた。転んだ時に打った肩にも先輩は丁寧に湿布を貼って手当てしてくれたけど、力を込めて抱き締められると鈍く痛んだ。

「……本当はさ、俺も悪かったなってちょっとは思ってるんだ」
「へ?」
「君をリレーの選手に指名したのは単純にその方が面白いだろうっていう思い付きが理由だったけど……そのせいで君は怪我をした」
「先輩……」
「だからさ、俺にもすこーしは責任はあるだろうなって、反省はしてるんだよ」

これには、心底驚いた。先輩が自分の非を反省しているところなんて、初めて見た。うん、本当に初めてだ。
知ってのとおり、先輩はどこまでも我が道を行く人だ。自分の興味のためならばなんでもする。そして、自分がした事に対して他人がどんなに損害を被ろうが、謝罪や反省をしない。少なくとも、僕はそんな先輩の姿を見た事が無い。

だから、今こうして反省という言葉を口にした殊勝な態度の先輩に、僕は若干感動していた。僕に怪我をさせてしまった事を気にしてくれていたと知って、ちょっと嬉しかったのだ。
単純だな、と自分で思う。けれどやはり、それは惚れた弱みという奴だと思って許して頂きたい。
だから、許そうと思った。こんな怪我をしたのは確かに先輩の一言が原因だけど、結果としてちゃんとリレーも成り立ったし、リレーでは白が勝つ事が出来たから、結果オーライだ。だから先輩を怒る気持ちは、もう無かった。

「……けどさあ、」

――――そんな僕の思考回路そのものが甘すぎるんだと、気付いたのは一瞬後。

「君は俺のなのに、その体に勝手に傷作るっていうのは許せないんだよねえ」

僕の体を強く抱きしめたまま、耳元でそう囁いた先輩に、ああそうだったそうだよこの人はこういう人なんだよね、と僕は心の中だけで嘆いた。

「と、いうわけで、ちょっと俺割とマジでキレてるからお仕置きしてもいいよね」
「えっ!?いや、理不尽すぎますそんなのっ!」
「君の意見は却下」
「横暴です!」
「……煩いなあ」

がっ、と両腕を掴まれる。いつの間にか組み敷かれるような態勢になっていて僕は青褪めた。先輩の手に握られているのは、僕がさっきまでつけていた白いハチマキ。まさか。

「じゃあこれバスケで優勝したご褒美って事にしてよ?それなら文句ないだろ」
「時と場所に大いに問題が……」
「たまにはいいじゃない、保健室プレイも」

案の定、僕の手首はハチマキによって頭上できつく戒められてしまう。本格的に、危機だ。

「まあ泣こうが喚こうが、ここで俺が君を抱くっていう事実は変わらないから」

先輩が、嫌な風に笑った。






「っ……ぃ、やぁっ」

ぐち、と後穴を解す指が増やされて堪えていた声が漏れる。縛られた腕は寝台の柵に繋がれて、動かせない。仰向けの体を腰だけ抱えられて、先輩は先程から執拗に後ろを弄っている。足を広げられて、下半身だけ裸で、それを上から見られていると思うだけでとんでもない羞恥が湧きあがった。

「帝人君、後ろしか弄って無いのに勃ってるよ」
「ぅっ、あぁっ、」

ぐり、と中の性感帯を押し潰される。びくんと跳ねた腰を押さえこまれ、また指が増やされた。多分、三本ぐらいは入ってる。内壁を擦られる度に先輩の指を締め付けてしまって、必死に力を抜こうと努力するけどそれも難しい。
なんの滑りも無いまま後ろに指を突っ込まれたから、正直すごく痛かった。

「い、たい、先輩っ……」
「はは、だって気持ちよくしたらお仕置きの意味無いじゃん」

愉快な声で先輩は笑う。まだ、怒っているみたいだ。どうしよう。
怒った先輩は、僕の嫌がる事とか痛がる事とか平気でやるから、正直好きじゃない。

「っあぁぁぁっ!」

ぐり、と勃ち上がった自身の先端に爪を立てられた。容赦なく尿道を抉られて、痛みしか感じない。いやいやと頭を振るも先輩は低く笑うだけで、解放はされない。

「ねえ、帝人君。痛い?」
「っ、いたいですっ……」
「止めて欲しい?」

こくこくと必死に頷く。先輩はにっこり笑って、でもやっぱその笑顔は嫌な感じがして、僕はぽろぽろと涙を流した。

「なら、痛いのは止めてあげる」
「ひぃっ――――!」

指を抜かれたと思ったら何の前触れもなしに先輩が中に押し入って来た。解されたいたとはいえ、痛みを感じるほど乱暴に拓かれただけの後ろは当然、指以上の質量を持つ熱の侵入を拒む。けれどそれすらも構わず、先輩は腰を推し進めた。ぎちぎちと穴が広がる感触が、痛い。

「やぁっ、いたい……いたぁっ!」

痛いと泣き喚いても先輩はもろん容赦なんかしない、そのまま無理矢理抜き差しを始めて腰を揺する。痛みは確かに感じるけれど、性感帯を擦られれば体は嫌でも反応してしまう。

「っ、出る、でちゃう、せんぱいっ……」
「はい、だーめ」
「んぁぁっ!」

ぎゅうと達する間際だった自信を握られた。それと同時に動きも止められる。堰止められた熱が体の中で渦巻いていて苦しい。後ろはじんじんと痛むのに、体はそれすらも快感として認識しかけていた。

「……帝人君、もう勝手に怪我したら駄目だよ?」
「っ、うっ、あ……」
「分かった?」

さりと、頭を撫でられる。表情や口調とは裏腹に、その手つきは酷く優しかった。
痛みと苦しさから逃れたい一心で、僕は必死に首を縦に振る。

「約束だよ?」
「っあ、あうっ、うぁ――――!」

迎えた絶頂に、視界がちかちかと白くなった。

「……君の怪我さえなければ、結構楽しかったんだけどな」








「臨也と竜ヶ峰君、遅いね」
「結構酷い怪我してたからな……手当に手間取ってんだろう」
「やっぱり僕が行くべきだったかなぁ」

門田と新羅がそんな会話をしている横に立っているのは、同じく待ちぼうけを喰らっている静雄と幽だ。静雄はでかでかとした優勝旗、幽はこれまた豪華な優勝トロフィーを抱えている。

「折角総合で白が優勝したんだからさ、記念撮影でもってちゃんと言っといたのに」
「それ、臨也の奴ちゃんと聞いてたのか……?」
「うーん……どうだろ」

思い出されるのは慌てた様子で帝人を抱えて保健室に走っていった友人の姿だ。あの様子では、新羅の言葉などまともに聞いていたのかどうかさえ怪しい。

「……おい、ノミ蟲はまだか。いつまで俺にこんな旗持たせとく気だ」
「そんな事言ったって、来ないものはしょうがないじゃないか。あ、なんなら静雄が呼んできなよ」
「断る」

苛々とした様子であるが、静雄はそれでもその場から去ろうとはしない。なんだかんだ言って、優勝できたことが嬉しかったのだろう。それはこの場に居る全員が同じ気持ちだった。

「……兄貴、楽しかったね」
「……まあ、な」

空は快晴。暮れかかった空はまだ明るい。


来良学園スポーツ大会は、今年もまた無事に終わる。
生徒たちの心に様々な思い出を刻んで。











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