(お、)

また見てるなあ、感じる熱視線に俺は緩みそうになる口元を抑える。渡り廊下の向こうから歩いてくるのはあの子だ。いつもクラスメイトである頭の黄色い少年と眼鏡の少女と行動を共にしている、学校内でも一際目立つ童顔の少年。

彼の事を俺はよく知っていた。初めて会ったのはシズちゃんとの殺し合いの最中だ。三年に進学してから二週間ほどたったあの日、いつものように殺し合いをしていた俺はあの子と出会った。はたしてあれが"出会い"と呼べるものなのかは定かではないけど、向こうも俺を認識したみたいだし俺も彼を認識したのは間違いも無い事実だから、やはり出会いはあの日あの場所だ。

(竜ヶ峰帝人)

それがあの子の名前だ。今年入学したばかりの一年生。池袋には高校進学に合わせて越して来たらしく、現在は一人暮らし。さすがにまだ住所までは調べていないけど。仲の良いクラスメイトは先にあげた二人。頭の黄色い少年紀田正臣君と、眼鏡の少女園原杏里さん。園原杏里と共にクラスの学級委員をつとめ、図書委員も兼任している。部活は特に入っていない。家族構成も交遊関係も至って普通。特筆すべき部分なんて数えるほどもない。平平凡凡という言葉がまさにぴったりの、どこにでもいる高校生。
それが彼、竜ヶ峰帝人だ。

言っておくけど、別にこれしきの情報を集めるのは俺にとっては容易な事だ。この学園内における事で俺に知れない情報は無い。まあでも知れない情報は無いってだけで、俺はこの学園内すべての生徒の情報を知っているわけではない。知らないと言うよりは、知る理由も無いと言うところか。

俺は自分の興味のある人間についてしか、進んで情報を集めたいとは思わない。いかに観察対象として興味深いか、それだけだ。

彼、竜ヶ峰帝人の情報を集めたのもちょっとした好奇心と興味からだ。やけに視線を送ってくる奴がいるなあと思ったら、それが彼だっただけの話。別に恋焦がれるようなそういう視線っていうのは慣れっこだったから今更頓着するつもりもなかったけど、俺が気になったのは彼の思考だ。
彼は俺が視線に気づいてないと本気で思っているらしい。そして、俺の事を求めて焦がれて恋しがっているというのに、視線だけが一方的で決して俺からの視線やアクションを求めていないという点が他の視線とは違った。俺にそういった感情を向けて視線を送ってくる奴というのは、俺がその視線に気付く事を望んでいる。気付いて欲しいと願い、そして感情を剥き出しにして視線を送る。
けれど彼は違った。彼は俺に振りむいてもらう事を期待していない。見返りを求めていない。勝手に自分で俺を見つけては喜んで、勝手に自分の中で自己完結して落ち込んでいる。

それが竜ヶ峰帝人だった。

俺は興味を持った。彼から向けられる恋心には生憎と興味は無かったけれど、そういう風に働く思考回路というか性格というか、とりあえずそういう部分には興味があった。
だから色々と試してみたくなるのが俺の性だ。俺は人間をこよなく愛している、彼もその一部にすぎない。

(また見てる)

二人の友人に挟まれながら歩いてくる彼は俺を見ていた。おそらく本人は悟られまいとしているのだろうけど、生憎と俺にはばればれだ。無駄な努力、と喉奥で笑う。
俺は気付かない振りをする。まずはとことん、徹底的に彼を視界に入れない。それを続けて彼にどういった変化が出るか、手始めにそこから観察してみようと思った。

(ああ可哀想に)

気付いていない振りをして他人の心を振り回す、多分俺は酷い人間なんだろうなあ。自覚はあるよ、これでも。でも止められない。楽しいから。俺は人間が好きだ、だから知りたい。彼も、彼の事も、人間の全てを。

彼が近づいてくる。俺の彼に近づく。けれど彼の視線は無視。存在も無視。俺の姿に怯えたように凍りつくその姿は、まさに滑稽だった。

そうして今日も、俺達はすれ違う。

安堵して、落胆しているのだろう、彼は。そして勝手に自分の中でぐるぐる考えて落ち込んでいるのだろう。見慣れた反応だ。それがとてつもなく、楽しい。

(さあて、次はどうしてあげよう)

どうしたら彼の心は揺れ動くのか、どうしたら俺を楽しませる反応を返してくれるのか。最近の俺の楽しみは彼だった。彼の心情をどう動かそうか、考えれば考えるほど楽しくなってくる。ああ、こんなにも楽しいのは久しぶりだ。

これが俺の、日常。











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