(今日は楽しかったなあ)

布団から引っ張り出した毛布に包まりながら、チャットを覗く。いつものチャットメンバーによる本日の話題は、もっぱら今日、すなわち二十四日をどう過ごしたか。そして明日のクリスマス本番をどう過ごすか。これ一色だった。セットンさんは昼間は明日のために買い物に行き、そして夜からはUMA特集のテレビ番組を見ていたらしい。発言がさっきからおかしいのは恐怖によるものだろうか。怖いなら見なければいいのに。罪歌さんは知り合いの家のパーティーに呼ばれていたのだそうだ。

かくいう僕も、今日は友達、三好君と命一杯クリスマスイブの池袋を満喫してきた。本当なら正臣と園原さんも一緒に遊べればよかったのだけど、生憎と都合がつかなかったのだ。その代わり、明日は夜から四人でパーティーを執り行うことになっている。冬休み万歳。

あちこちを転勤し続ける生活だったため、クリスマスというのもあまりゆっくりと満喫したことがない三好君のために、今日は張り切って色々なところへ連れまわしてしまったから、もしかしたら三好君疲れちゃったかなあなんて。つい先程分かれた赤毛の友達の姿を思い浮かべる。
サンタに扮した客引きに捕まったり、某電気屋の前にサンタの格好で立っていた某地上デジタル放送のマスコットキャラクターである鹿と写真を撮ったり、露西亜寿司でクリスマスセットというのは名ばかりのクリスマスにあまり関係の無いけれど豪勢かつ奇抜なネタを食べたり、クリスマスなのは分かるけど何故か超テンションの高い狩沢さんと遊馬崎さんに某アニメショップに引きずり込まれたり。
クリスマスのムードや飾りで彩られた街中を歩いているだけで気分が高揚して楽しくて、それは三好君も同じみたいだった。ゲームセンターで遭遇した三好君の知り合いらしい黄色のバンダナの男の子からは、ついさっきUFOキャッチャーでゲットしたというぬいぐるみを、なんと僕まで貰ってしまったからすごく申し訳ない気持ちになったのだが、やっぱりそういうハプニングというかサプライズまでもが、全てのことが楽しくて。

また明日、そう手を振って別れてもう何時間たつだろう。時計は、もうすぐイブが終わることを示していた。

(……これで、)

これであと一人、あの人がいてくれたら完璧だったんだけどなあ。
タイプしていた指を止める。
年末だからなのかは知らないが、仕事が忙しいらしくて暫く顔すら見ていない。僕は学生で彼は社会人で、そんなことは考えるまでも泣く明白な事実であるから、時間だって合わないのも分かりきったことだ。行事にこだわるタイプではないけれど、でもやっぱり、こういう特別な日を、好きな人と一緒に過ごしてみたいなあと思うのは、思うだけなら、きっと悪くは無いはずだ。

「明日も会えないよね……」

今朝から携帯は、その人の着信を告げることは一切無い。この分では明日も望み薄だろうなと諦めの気持ちを抱くが、それでもやっぱり心のどこかで期待している自分もいる。

考えるのも面倒になって、携帯を畳の上に放り投げた。隙間なく毛布に包まってチャットの会話を再開しようと指をキーボードに添えたところで、それは、聞こえる。


ガタ、ガタガタ。


(……風?)

窓から聞こえたその音に風でも出てきたのかと思って視線を投げれば、あやうく悲鳴を上げそうになった。


ガタガタガタ。


窓の向こうに、誰かいる。人影が、見える。

(ど、泥棒!?ど、どうしよう携帯……)

しかし携帯は今しがた自分が投げてしまったばかりで、ここからでは手を伸ばしても届かない。少し動けばそれで済むはずのことなのだが、あまりの恐怖に、体が金縛りにあったかのように動かなかった。背筋をひやりとした何かが滑り落ちる。ガタガタ、音は激しくなり、そして。

ガタッ!

窓が、開けられた。




「あれ、帝人君。何してるのそんなところで」

きょとん、と、不思議そうな顔をして窓からの不法侵入を果たしたのは、予想外の、人物だった。
何してるのって、それはこっちの台詞です。なんて切り返しも出来ずにぱくぱくと口を開閉させていると、帝人君魚みたいと理不尽に馬鹿にされた。誰のせいだと思ってるんだ!

「い、ざや、さん……?」
「電気消えてるから寝てるのかと思って忍び込んだんだけど。っていうか暗い中パソコンだけやってるとかホラーだから止めなよすっごく怖い」

貴方が言うのかそれを。人に並々ならぬ恐怖をたった今植え付けた貴方が言うのか!
けれどやはり、そんな文句は言葉になることなく胸の内で消えてしまった。

ひょいと窓枠から侵入してきた臨也さんは窓を元通りに閉めると、靴を脱いで揃えている。よくよくその姿を見てみれば、いつもの黒いファーコートは赤いコートになっていて、ズボンもご丁寧に赤色だ。まさか、この人。

「一度やってみたかったんだ。リアルサンタ」
「……リアルでやったら犯罪ですよ、不法侵入」
「クリスマスの夜くらい見逃してよ」
「警察にそんな理屈は通じないと思います」

まあ警察の話はどうでもいいよ、サンタ、もとい臨也さんは僕に近づいてくると、勝手にパソコンを操作して「今日は落ちます。皆さんよいクリスマスを」なんて打ち込んでログアウトしてしまった。そのままスリープ状態にされたパソコンのディスプレイが黒くなり、室内から光源が消えうせる。

「これでも色々考えたんだよ。非日常大好きっ子な帝人君をどうしたら驚かせてあげられるかなって」
「……驚いたというよりもいっそ恐怖です」
「でも滅多にないクリスマスだろ?」
「滅多にあったら困ります」

赤い臨也さんはにぃ、と笑った。嫌な笑みだ。僕は彼のこういう笑みを、かっこいいとは思うけど実際に自分に向けて欲しいと思ったことは無い。
赤い服よりも赤く暗い臨也さんの瞳が細められ、僕の方へと彼の手が伸ばされる。さて帝人君、紡ぐ声は、楽しげだった。

「サンタクロースに、何かプレゼント、言ってみなよ」

君が欲しいものを用意してあげる。

僕は手を伸ばした。欲しいものは、もうずっと前から決まっている。握り締めた赤い服に、顔を埋めた。


「……臨也さんが欲しいです」







→(side:miyoshi)






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