毛布だけではさすがに肌寒かったか、と、身に感じる薄ら寒さに臨也は覚醒を余儀なくされる。かといって今から掛け布団を取り出すのも、まだまだ睡眠を欲しまどろんでいるこの状態では億劫でしょうがなかった。
ついこの間まではエアコン無しでは生活が出来ない程暑かったというのに、季節の移り変わりというのはあっという間であると、毎年秋になる度に痛感する。
(さみ……)
もぞもぞと腕を伸ばして、広いベッドの隣を漁った。湯たんぽがあったはずなのだが、一体どこにいてしまったのだろうか。微かにシーツに残る温もりが、まどろみに拍車をかける。寒くて全身の熱が奪われるほどではない、ただちょっと、肌寒いと感じる秋の朝。温かい湯たんぽを抱え込んで体温で温まった毛布の中、二度寝が出来れば最高だろう。
早くそんな至福の時にありつきたくて、臨也は細く目を開ける。湯たんぽは隣にない。どこに行ったのかと少し視線を上げれば、ベッドの端っこ、今にも落ちそうなぎりぎりの場所に、小さく丸まる背中が見えた。
なんでんなとこにいんだよ、と心中で舌打ちし、臨也は両手を伸ばして力ずくで湯たんぽを引き寄せた。
「、ふぁ、」
臨也が湯たんぽと称した子供も、まどろんでいたのだろう。驚いたらしいが寝起きのためか、全く意味の分からない悲鳴が上がる。
「、?」
湯たんぽは臨也の腕の中で眠そうな目を擦りながら、きょとりと瞬いた。何が起こったのか分からないらしい。しかし臨也には既に二度寝をするというその欲求しかなく、小さな背中を胸に引き寄せて、そのまま既に眠りに落ちようとしていた。
(あったか……)
しかし湯たんぽは何がお気に召さないのか、小さく身じろいでは臨也の腕から逃げ出そうともがく。それを許すまいと腕に力をこめるが、中々どうして湯たんぽも強情だ、根負けしたのは臨也であった。睡眠欲には抗えないというもの、無駄に疲れることはしたくない。
腕から力を抜けば、湯たんぽはいそいそと抜け出していく。トイレにでも行きたかったのだろうか、と名残惜しく思っていると、どうしたことか、湯たんぽはすごすごと臨也の腕の中に戻ってくるではないか。
ぐるりと向きを変えて、臨也の胸に正面から寄り添ってくる。お気に召さなかったのは、背後から抱きかかえられている体勢だったらしい。今度は自分から臨也の体にくっついては、頬を摺り寄せてくる有様だ。
(めずらしい……)
自分から近づいてくることなど滅多にないだけに、これには臨也も驚きを隠せない。恐るべき、まどろみの力、ということか。しかし驚くよりも何よりも、臨也は手に入った湯たんぽを抱きかかえ、ようやく至福の二度寝へと意識を落としたのだった。
肌寒い秋の朝。体温で温まった毛布内。
腕の中には、ぬくぬくと温かい、自分専用の湯たんぽ。
まさに贅沢かつ至福の、朝だった。