「おかえり」

ベッドに腰掛けてテレビを見ていたらしい臨也の姿に、帝人は固まる。まあ当然と言えば当然だ、臨也だって服を余す所なく濡らしてしまったわけだし、あのままの格好でいたら確実に風邪を引いてしまうだろう。
臨也も帝人同様、バスローブを着ていた。脱いだ服は帝人がシャワーを浴びている間に洗濯機にでも放り込んだのか、見当たらない。ぼけっと突っ立っていると見かねた臨也に座ったら?と声をかけられてしまい帝人は弾かれた様にベッドに腰を下ろした。

「乾くまで時間かかるだろうから、少し待たないとだよ」
「はっ、はいっ」

思わず臨也と距離をとって腰を下ろしてしまった帝人だが、やはり気になってちらりと横に居る彼を伺う。普段から黒い服にファーつきの上着を着た臨也の姿しか見た事が無かったから、今バスローブを着ている臨也の姿は新鮮だった。新鮮と言うか、どうしてか見ていると顔が熱くなる。
裾から伸びる足や袖から覗く腕を見ていると、彼は大人なんだなあと改めて感じられた。普段とは違う恰好をしているからなのか、この部屋の雰囲気が帝人にそう錯覚させるのかは分からないが、彼の姿は、純粋にかっこいいと思えた。
そう考えて、帝人はまた一人赤面する。自分の隣にる人物の事をやけに意識してしまい、知らずに顔が熱くなった。

(な、なんでだろう)

隣に居るのは臨也なのに、どうしてこうも意識してしまうのか。動悸が止まらない。先程シャワーと一緒に流してしまったはずの緊張が、またぶり返す。

気を紛らわせようと、臨也が目を向けているテレビに帝人も視線を移した。洋画らしいが内容はちっとも頭に入らず、時間がたてばたつほど、無言が続けば続くほど、臨也という男の存在が帝人の心を揺すぶった。

(き、きっとここがそういう場所だからだよ!だから雰囲気に当てられてるだけなんだよねきっと!)

心の中で言い訳めいた主張を繰り返して帝人が目をつぶった時だった。隣からくくっ、と笑う声が聞こえてはっとする。
隣を見れば、臨也がこちらを見て笑っていた。

「君さ、百面相してどうしたわけ」
「え、いやっ、あの、」
「見ててすんごい面白いんだけど」

そう言われてまた顔が熱くなる。まさか見られていたなんて、恥ずかしさのあまり顔を上げられずに俯くと、ブツンという音が聞こえた。

「え……」

それがテレビの電源を切った音なのだと気付いた時には、帝人の体は既にベッドに押し倒されていた。目の前に居るのは、もちろん臨也。

「臨也さん、」
「あんな顔してさあ、襲ってくれって言ってるようなもんだよ?」

臨也が浮かべた艶っぽい笑みに、ぞくりと背中が粟立つ。耳元に口を寄せ、物欲しそうな顔して男見たら駄目じゃん、と臨也は愉快気に囁いた。するりと彼の右手が滑りバスローブの前を解きにかかった所で、帝人はようやく状況を理解する。

「っ、臨也さん!」

臨也の体を押しのけようと腕を突っ張るが、帝人の両手首はあっさりと拘束され体をひっくり返された。うつ伏せになった事で見えなくなった彼に、恐怖が募る。腕は後ろ手に押さえつけられ帝人に抵抗する術は無くなった。

「っ、ぃっ!」

指が肌を滑り、前に回された臨也の手が意図して帝人の胸を擽る。その感触にびくりと体を揺らすと、臨也はまるで遊ぶようにして突起をなぞり始めた。

「くっ、っん……」

ぞくりとした悪寒が背筋を這いあがり、帝人は自然と漏れてしまった声を押しこめるように唇を噛んだ。背後で臨也が笑う気配がする。指がまた戯れに動き、今度は強く爪を立てられた。

「ひっ、!」

まるで電流のような衝撃が背筋を走る。女みたいな自分の声に羞恥が募り、帝人はじわりと涙を浮かべながら首を振った。

「臨也さんっ……やめっ……」
「やだ。止めない」
「っふぁ、あぁっ!」

ぎち、と突然自身を握りこまれ帝人は悲鳴を上げた。容赦なく動く手は帝人を追いつめ、時折先端にたてられる爪にびくびくと体が跳ねあがる。

「やだっ、い……ざゃ、さん、ゃあっ!」

他人の手で追い上げられる感覚は、帝人にとっては恐怖だった。得体のしれない感触が体を、思考を浸食していく。全てを手放してしまいそうで怖くて、この行為の終着点を想像してはまたぞっとした。

「ふっ、あぅ……っぅ」

涙が止まらない。怖いのと気持ちいいのがごっちゃになる。
臨也の手が自身から離れ、ローブを捲り上げた所で帝人はまた眼を見開いた。あり得ない個所に、指が宛がわれる。

「やっ!……あぁっ、いぁっ!」

ぐち、と嫌な音がして指が中にのめり込む。異物感は恐怖しか生まず、帝人の涙をさらに増長させた。だがそんな帝人を嘲笑うかのように、臨也は無理矢理二本目を突っ込む。

「い、た……いざやさん、痛いっ……」
「帝人君知ってる?男でも後ろで良くなれるんだよ。前立腺っていう部分があってね、そこで快感を拾えるんだ」

ぐり、と内壁を指で抉られると同時に帝人の体は大袈裟に跳ねた。ああ、ここだよここ、と楽しそうな臨也の声が降ってくるも、帝人には意味のある言葉としては捉えられない。ただの音として流れていく。
臨也がもう一度、同じ場所を抉った。

「っ、あんっ!……ひっ、ぅあっ!」

擦られる度に湧きあがる快感が、痛みを塗りつぶしていく。腰を上げて涙を流しながら喘ぐ自分の姿は、臨也の眼にはどう映っているのだろうか。酷くみっともない己の姿に羞恥を感じる事も出来ず、ただ喘いだ。
やがて抜かれた指の代わりに、熱い質量が押し付けられる。その頃にはもう腕は解放されていたが、自分の体を支えるだけで精いっぱいだった帝人に抵抗出来るだけの力は残っていなかった。

「あっ、ふぁ、ぁんっ!」

ぐちぐち抜き差しされる熱は指とは比べ物にならないくらい痛くて、そして気持ちいい。先程臨也が言っていた前立腺という部分のみを抉られて、帝人の体はとうとう崩れ落ちた。
怖い、痛い、けれど、確かにそこには快感が存在する。

「ひっ、いざっ、や、さんっ、あ、ああぁ!」

うわ言の様に臨也の名前を繰り返し、シーツに縋る。気つけば自分は達していたらしく腹やシーツが汚れていた。
それでも終わる事の無い行為に、帝人は喘ぎ続けた。






「順序が逆になったけど、俺君の事好きだよ」

行為の後、臨也は実にあっさりと、ムードも何もあったものではない告白をしてくれた。正直体の痛みと羞恥心と気まずさとその他諸々の感情がごちゃ混ぜになっている帝人には、その言葉の意味を処理するだけの許容量は残っていなかった。
ただ、「は?」と臨也を見上げる事しかできない。

「でなかったら男誘ってラブホなんて来ないし」
「え、でも、服を乾かしに来たんじゃ……」
「口実に決まってるじゃん。それでひょいひょいついて来る帝人君も不用心すぎ。ってか、馬鹿?」

どうして無理矢理襲ってきた人間にそこまで言われなくてはならないのか。文句を言うべき立場なのは帝人であるはずなのに、言い返す気力も無かった。そもそも臨也の言う事は全てその通りだったので、反論など出来る筈がないのだ。

「そんな不用心かつ無防備かつ鈍感な帝人君には、俺の気持ちを体で分からせた方が手っ取り早いかと思って」
「だっ、だからっていきなりこんな……!」

なんと言うめちゃくちゃな言い分だろうか。それでこちらの意思も何もかもを無視されたのではたまったものではない。
飄々とする臨也を睨みつけるために顔を上げると、赤味ががった黒い瞳とぶつかる。瞳の奥がぎらりと輝いた気がして、帝人は何も言えなくなった。

「だって、君も俺の事好きだろ?」

なら何も問題ないよ、臨也は笑顔だった。対する帝人はシーツに顔を埋めた。


フロントからかかって来た時間を知らせる電話に、臨也は「延長で」と笑顔のまま答える。帝人はそれを聞きながら、もうどうにでもしてくれ!と心の中でやけ気味に叫んだ。











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