※輪姦要素あり




ずるりと体から異物が抜けていく感覚すら、何処か他人事のように思えた。それほど今の帝人は心身ともに感覚が麻痺してしまっている。ただ涙を流すためだけに薄く開かれた瞳は、解放された瞬間安堵からか完璧に閉じられた。気を失えたらどれほどよかっただろう。

「おい、早くしろよ」
「後がつっかえてんだからよー」

すぐ近くにいるはずの男の声すら遠くのように聞こえて、まだこの苦痛のような時間は終わらないのだと帝人はまた絶望した。

臨也との約束のため、帝人は学校から帰るその足で待ち合わせ場所に向かった。しかしその道中、いきなり五人ほどの男に囲まれこの場所に無理矢理連れてこられた。元々人通りの少ない道だったために、他人に助けを求める暇も与えられずの誘拐。
倉庫跡地のような外観の寂れた建物内は酷く荒れていた。ゴミや廃棄物が散乱し、高い位置にある窓も割れている。一体この場所で自分はどうなってしまうのか、そう考えて恐怖する帝人に襲いかかったのは、ある意味もっとも悲惨な結末だった。

倉庫の奥の方には段ボールやドラム缶が無造作に転がっており、自転車や冷蔵庫のような電化製品までもが廃棄されていた。その一角にある、同じく廃棄物だろう薄汚れたソファの上に帝人は乱暴に転がされる。状況が理解できぬまま男達を見上げると荷物を奪われた。金が目的なのかと思ったが、財布入りの鞄はまるで邪魔だと言わんばかりに放られてしまう。そして男達は帝人の制服を剥ぎ取りにかかったのだ。

後はもう、抵抗しても無駄の一言で終わる。それなりに体格の良い男五人から逃れる術は無く、暴れれば容赦なく殴られた。そして順番に、犯された。
三人目の男の熱が中で弾ける頃には帝人は悲鳴を上げる事すらできず、ただうわ言のように喘いで涙を流していた。まさかこんな辱めを受けるとは思いもしなかっただけに、暴力と共に体を良いようにされている事への嫌悪感、不快感、悲壮、屈辱。全てが涙となって流れていく。

四人目の男が帝人の腰を抱えた。もう嫌だ、そればかりが胸中で渦巻く。早くこんな拷問が終わる事のみを願って、帝人は強く瞳を閉じる。
誰か、助けて。




「随分趣味の悪い遊びだね」

場にそぐわない、底抜けに明るい声が聞こえた。男達は慌てふためき声の方を見る。こんな所に人が来るとは思わなかったのだろう、帝人も驚いた。

「そんな胸糞悪い遊びはやめて、警察と楽しく鬼ごっこでもどう?」

顔を上げた帝人の眼に映ったのは、携帯をこちらに向ける臨也の姿であった。彼が口にした警察、という単語に異常なまでに同様した男達は、臨也が携帯で通報したとでも思ったのだろう、すぐにその場からわらわらと逃げて行った。

「大丈夫、帝人君」
「いざや、さん……」

近づいてきた臨也は帝人のあられも無い恰好に顔色一つ変えず、だが酷く優しい手つきで帝人の体を抱きしめた。こんなに汚れた体でも躊躇なく抱き締めてくれる、帝人はまた涙を流す。背中で拘束されていた帝人の両腕を自由にすると、臨也は宥めるように頭を撫でた。

「臨也さんっ、……ありがとう、ございます」
「気にしなくていいよ。怖かったろ?もう大丈夫だから」

その言葉にまた涙があふれた。怖かった、それを全身で伝えるように臨也の背中に手を回す。赤子のように泣き喚く自分に羞恥を感じないわけではなかったが、今はそれよりも臨也の温もりが欲しかった。

「あの……どうしてここが分かったんですか?」

幾分涙が落ち着いた頃、帝人は心の余裕の現れか、ある意味当然のような質問を臨也にした。自分が泣きやむまで優しく背を擦ってくれていた臨也は、ああ、と酷く優しげに、しかし酷く楽しげに、笑った。

「だって、君を襲わせたの、俺だから」

一瞬、臨也の言葉が理解できなくなる。たが間をおけばじわじわと脳に浸透してくるその言葉は、帝人の正常な思考能力を鈍らせた。臨也は本当に優しい表情で、悪魔のような、いや、悪魔そのものの言葉を口にする。

「今って便利だよね、全部ネットでどうこうできるんだから。ああいう男が趣味の奴ら、結構リアルで多いって知ってた?そういう奴ら専用の出会い系みたいなサイトがあってさ、そこで声をかけたわけ。童顔な現役男子高生ってだけで簡単に集まるんだ、欲深い連中だよね。そんで場所と日時を指定して、ホテルじゃなくて人気のないこの場所で君を犯すよう仕向けたんだ」

流暢に言葉を紡ぐ臨也を呆然と見上げる。それじゃあ、今日あの場所で待ち合わせをしようと言ってきたのは、

「そうだよ、あの場所が目印だったからね。だから君をあそこで待たせた」

優しげだったはずの臨也の表情は、いつのまにか酷く楽しげな、それでいて人を嘲笑うかのようないつもの笑顔に変わっていた。帝人はそこで、臨也の口にする言葉がすべて真実なのだと、悟る。
馬鹿みたいだ、と思った。同時に目の前の彼に対すると怒りと、悲しみと、とにかく苦しい感情がこみ上げてくる。

「な、んで、そんな事……」
「なんで?愚問だね、君を愛してるからさ」

ぼろぼろと涙を流す帝人の体を臨也は押し倒した。ソファから埃がたつ。深い絶望に彩られた帝人の表情を見下ろして、臨也は笑った。何が楽しいのか、愉悦に表情を綻ばせる。

「俺はね、帝人君の事が好きなんだよ。愛してる。この言葉と気持ちに一片の偽りも無い、馬鹿みたいに君に夢中なんだ」

甘ったるい声が愛を囁く、臨也はするりと帝人の脇腹を撫で上げた。ワイシャツ以外は何も纏っていない、剥き出しの素肌に手を這わす。

「けどね、だからこそ俺は君からも求められたいんだよ。俺が求めるのと同じくらい、いやそれ以上に君に求められたい。君に焦がれて欲しいんだ。俺がこんなにも君を愛しているんだ、帝人君だって俺を愛するべきだろ?」
「だから、って、こんな……」

ぶわりと、感情が堰を切ったように溢れだした。それまでただ呆然としていただけだった帝人が、臨也の言葉に、行為に、涙する。傷ついたのだ、自分は。そして間抜けな自分自身にも深い怒りを覚えた。

「そうだよ、帝人君。君は今、自分自身にとても腹を立てているだろ?あんな男達に犯されている最中、心の中で必死に助けを求めたのがこの俺だったんだからさ!」

臨也の言う通りだった。見知らぬ男達に犯されて、嫌で、泣いて。必死に助けを求めていたのだ、最中にずっと、臨也を求めていた。臨也に焦がれていた。
彼の思惑通りに動いた自分の心が、悔しい。

「俺は帝人君にそう思ってほしかったんだよ、ただ求めて欲しかった。それだけで俺は満たされるんだ、君が俺に恋しいという感情を抱いてくれるだけでね」

たった、たったそれだけのために、あんな男達をけしかけたのか。臨也の勝手な自己満足だけで、体も意思もプライドも全てを蹂躙された。怒りより、帝人は深い絶望に襲われていた。臨也はそんな帝人の心中を察しているのかいないのか、いきなり両足を抱え上げてくる。

「っ!?いざ、やさんっ……!」

だが制止の声も虚しく、先程まで散々好き勝手に拓かれた最奥に臨也の熱が押し込まれた。ひっ、と異物感に引き攣った悲鳴を上げる。気持ち悪い、怖い、痛い。

「どう、帝人君。あんなに助けを求めた、恋焦がれた俺に抱かれる気分は」
「っ、あ、あぁっ、ひっ、」
「気持ちいい?それとも、嬉しい?俺は嬉しいよ、それに幸せだ。君に求めてもらえて」

気遣う事も加減をする事もせず、臨也はただただ帝人の体を乱暴に揺する。がくがくと震える体は先程まで凌辱されていた恐怖を忘れてはいない、奥まで突かれる度に悲鳴を上げた。

「あ、くっ、あ、あぁ、やぁ!」

自分は怒っているのか、憤りを感じているのか、憎んでいるのか、それすらも分からなくなってきた。ただ思考の本流の中でぐるぐると悲しみだけが渦を巻く。嵌められたのだ、自分は。好きな相手に、一応恋中であるはずの相手に。傷つかないわけがない、現に心はナイフでもってずたずたにされたみたいに、軋む。

それでも一番救えないのはこんな事をされているにも関わらず、彼との行為に先程はなかった快感を感じている自分の体だと思った。

震える指を臨也の腕に伸ばす。殴る事も制止をかける事もせずに、帝人は縋るものを求めて臨也の二の腕を掴んだ。

「好きだよ、帝人君。本当に、心の底から愛してる」

そう告げる臨也の瞳には恍惚とした光が宿っていたが、帝人は気付いてしまった。彼が何をもって、常日頃から自分に愛を告げるのかを。

臨也は、自分を愛してくれている。それと同時に、この恋愛を愉しんでいる。
今もそうだ、彼は帝人の心中を見透かしてはその感情の揺れ動く様を愉しんでいるのだ。
男達に犯され恐怖に震えながらも、臨也が助けてくれたという事実だけであっさりと心を許し、だがそれら全てが臨也の差し金と知り得た途端さらなる絶望を味わっている、帝人の心を。彼は己の興味だけで、簡単に傷つける。

だから彼が告げる愛の言葉も、その一環でしかないのだ。興味を満たす道具でしかない。愛を囁かれた己が一体どんな反応を示すか、ただそれだけ。
そこにどの程度、本気の愛が詰まっているのかなど帝人には計り知れなかった。

「愛してる……このままめちゃくちゃに壊したいくらいにね」

嗤う臨也を、帝人は本気で、好きだった。










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