青い双眸とくすんだ茶色い毛並みがあの子供に似ていると、一瞬でも思ってしまった自分に舌打ちした。

べたつく湿気の雨の日に自宅の窓の下をうろうろしている猫がいた。野良猫が寄ってくる事など今まで一度もなく、濡れ鼠のような生き物を最初に発見した時に感じたのはああ何かいる、程度だった。邪魔だから追い払おうと近づくとその猫と目が合った。目が合ってしまって――スクアーロはどういう気まぐれか、その猫を自宅に入れてしまったのだった。

しばらくしてから、猫そっくりの瞳と髪色の子供が自宅に遊びに来た。件の猫はまだスクアーロの家にいる。バジルは家に家主以外の生き物がいる事に驚いたらしい、新顔の同居人にご丁寧にもこんにちは、と声をかけていた。

「猫を飼っていたのですね」
「飼ってるわけじゃねぇよ。俺はほとんどこの家に帰ってこないしな」

適当に牛乳を置いて窓の鍵を開けておく、猫は気ままに家を出入りしているようであった。言葉の通り任務の都合で自宅にはほとんど帰らないのだ、飼っている、とは言えないと思う。放し飼いというのもしっくりこない。そもそもスクアーロ本人に飼っているという感覚はない。どちらかと言えば食事の提供、その一言に尽きる。
バジルは人の話を聞いているのかいないのか、名前はあるんですかと呑気に尋ねてきた。あるわけねえだろと一蹴するとそうですかと少年は猫を撫でながら笑う。床の上で猫と戯れる子供を、ソファで煙草を銜えながら見下ろす。年相応の子供、こんな顔もできるのかとぼんやりと思った。

「動物はこれでも好きな方なんです」
「物好きだな」
「けど……貴方の同居人には好かれないようだ」

痛っ、とバジルが声を上げたのと猫が軽い身のこなしで窓枠に飛びつくのはほぼ同時だった。窓枠に飛び移った猫は開いている窓からするりと出て行き、バジルを見遣れば唇を手で押さえている。

「自傷が趣味なのかお前は」
「貴方には言われたくありません」

血の滲む唇をぺろりと舐める子供を見下ろす。赤い色に誘われて顔を近づけると傷口を舐めてみた。うわ、子供の声を無視して傷のある下唇を食む。べろりと舐めて吸い上げると血の味が広がった。

「……沁みるから、止めて下さい」
「消毒だ消毒」

適当な事を言って顔を離すとバジルは肩を落とした。なんとなく少年の髪の毛を右手で触ってみる。さらさらの髪の毛は引っかかりもなく、あの猫のふわふわとした毛並みとは感触が違った。

「何なんですか、さっきから」

バジルは照れているのか困っているのか曖昧な表情でスクアーロを見上げる。
これも気まぐれ、なのだろうと片付ける。ただ子供とよくにた瞳と毛色の猫を最近見かけるから、触ってみただけ。それだけ、だ。

ある日を境に猫は来なくなった。元々飼っていたわけでもないから何とも思わない。
しばらくしてまた遊びに来た少年は言った。

「あの猫、最近首輪をつけて歩いているのを見かけるんですよ」

嬉しそうに笑うバジルに、スクアーロはそうかと返事をしただけだった。










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