あの黄色は一種の憧れであったと、少年は語った。少年の自宅のリビングの棚の上、一際目を引く黄色い半球は大事に飾られている。スクアーロが何でそんなもん置いてるんだ、そう尋ねると少年は先のように返したのだった。
「もう何年も前ですけど、任務ですごい大怪我をした事があったんです。その時親方様が拙者を負ぶさってアジトまで連れ帰ってくれたんですが」
その時背中から見上げた黄色は印象的だったらしい。その黄色の下で快活に笑い少年を安堵させる言葉をかけ続けてくれた師に、少年は思ったのだそうだ。その黄色こそが、親方様と連れ添ってきた友のようであると。
「だから買い換えると仰った時に頂いたんです。捨てるのはもったいないと思ったので」
「んなもん置いといてどうすんだよ」
「どうもしません。ただ、これを見る度に思い出せる」
親方様の強さを、そう微笑んだ少年にくっだらねぇ、とスクアーロは吐き捨てた。口を開けば二言目には親方様、面白いはずがない。少年の心根の深い部分に根付くのは自分ではなく、敬愛する師匠なのだ。その片鱗をあんな黄色い無機物から見出そうとしている少年が哀れであり、そして腹立たしいと思った。
すくりと椅子から立ち上がる。慈しむ様に黄色を撫でている少年の腕をとって無理矢理こちらを向かせた。口付けると少年の耳が赤く染まる。
(こんなもん眺めて何が楽しいんだか)
キスを交わしながら左手で少年の視界を覆う。ただの黄色いヘルメット、自分とそれを秤にかけた時少年はどちらを選ぶのか、考えて止めた。あまりにも馬鹿馬鹿しい。
こいつつるはしも持ってんじゃねぇだろうな、そう考えてげんなりした。