「三日とろろと言うらしいですよ」
「……へー」
気のない返事を返したスクアーロには目もくれずテーブルの上に食事を並べていく。白いご飯と醤油とみそ汁と先ほど丹念に摩り下ろして卵と混ぜたとろろ。並べられるそれにスクアーロはソファに寝転がりながら視線を寄こした。
「一日二日はお餅を食べて胃がもたれるから、三日目にはとろろを食べて胃を休めるんですって」
「米は食わねぇ」
「イタリアですからね」
「んじゃなんである」
「親方様が送ってくださりました。そっちでも食べろと、三日とろろの意味もその時教わりましたよ」
家光もたまにはまともな事教えんだなぁ、貶しているのか誉めているのかよくわからない呟きを彼は漏らす。テーブルにパンとサラダと軽食を並べて出来ましたよ、と声をかけるとスクアーロはのそりと起き上がった。
テーブルに着いたスクアーロはご飯にとろろを盛大にぶっかけて醤油を垂らしているバジルを見て顔をしかめる。その目はそれ食うのか信じられねぇと物語っていた。
「同じテーブルなのに真ん中境に別世界だな」
「美味しいですよ」
スクアーロもどうですか、最後まで言い切らないうちにいらねぇと即答された。美味しいのに。もったいないと思いつつ食事を再開させてしばらく、スクアーロの手が止まっている事に気づく。真剣な顔でとろろを見つめている彼に何ですか、と尋ねるのと顎を掴まれるのは同時。
「……」
「……」
「……なんだこりゃ、すんげぇ粘つくぞ」
「そりゃあ……とろろですから」
びっくりした。キスされるとは思わなかった。
スクアーロはそのままパンを齧っていたが、とろろ味のキスなんて色気無さ過ぎだとは思わないのだろうか。
(ま、いっか)
とろろ味のキス、きっと一生に何度も体験できるものではないだろうから。