開け放った重厚な扉の中が目的地だった。ここに至るまでの道のりで赤く汚してしまった己の長剣を振るって血を飛ばす。血の臭いは慣れっこだ、だが中の惨状にはさすがに眉をしかめた。
でっかいベッドと、並ぶのは数多の拷問器具。部屋の中央に設えられた古いベッドの上に少年は転がされていた。裸の体にいくつも刻まれた裂傷と手首に巻かれて繋がれた鎖が痛々しい。
いつが命日になるか分からないような世界で生きている、自分も彼も。
鎖は剣で無理矢理断ち切った。ぐたりとした少年の体はぴくりと指先だけが動き、瞼の奥の青い瞳がこちらを見上げた。

「スク……アーロ……」

息はある、殺す事は奴らもしなかったらしい。元は門外顧問への脅迫のために誘拐したのだ、殺してしまえば意味はなくなる。
上着のロングコートを脱ぎ少年に被せた。血を大分吸っているが気にしない。そのまま適当に包んで持ち上げる。子供の体は右腕だけで事足りた。

「……おやかた、さまは、」
「無事だ。此処に来てる」
「そう、か……」

疲弊しきった少年はどんな扱いや辱めを受けても、己の師が危機に陥る情報を洩らさなかったのだろう。その屈強な精神には恐れ入る、いや忠誠心か。どちらにしろスクアーロにしてみれば笑い飛ばしたくなるものでしかない。

「……拙者は、親方様に……ご迷惑を」

かけてしまった、少年が呟いたのは助けられた礼でも恐怖に対する泣き事でもなく、懺悔だった。青い瞳から流れた雫をスクアーロは見なかった事にする。黙ってろ、と低く呟くと少年は大人しくなり腕の中で目を伏せた。廊下に転がる死体を避けながら進むと発砲音が遠くから聞こえてくる。

「お前を心配してたぜ、家光は」
「……」
「ボスも来てるし全員無事だ。お前がここに拉致られてから死んだ人間はいねぇよ」

だからもう何も考えんな寝てろ、少年はそれを聞き入れたのか分からないが静かになった。見れば寝ている。緊張と疲労が小さい体の隅々まで浸食しているのだろう、揺さぶっても起きなかった。
この後こいつはどうすればいいのか、跳ね馬にでも預けりゃいいのか。

(その前にこの屋敷の掃除だな)

後何人残っているのか、考えたところでまた発砲音が聞こえたが少年が目覚める気配はなかった。










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テーマ「人外ファンタジー」
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