「沢田殿、どうぞ」

にこにこした友達から渡されたのは可愛いピンク色の袋で、リボンで止められたそれに似たようなのを今日はよく見かけた。おもに女子が手にしていたものだけど。

「えっと……バジル君、これって」
「はい。チョコレートです」

言ってから、多分その言葉だけでは語弊が生じると気付いたのだろう、バジル君は慌てて付け加えた。

「奥方殿から聞いたんです。こちらでは好きな方だけではなく、友人にもチョコを贈るのだと」

ああなるほど、母さんの入れ知恵かと納得。バジル君は帰国子女だし、外国では男性からプレゼントを贈るのが普通な所もあるらしい。それならば今日、彼がプレゼントを贈るのもおかしい事ではない。
ただ、男子の間でも所謂友チョコってやつを贈り合うのが普通なのかと言われたら、素直に首は縦に振れないけれど。

「ありがとう。後で食べるね」
「はい。お口に合うかはわかりませんが」
「そんな事ないよ。バジル君料理上手だし」

風紀委員の人に見つかると怖いからとりあえず鞄に袋を仕舞った。好意をもったプレゼントをされるっていうのは、純粋に嬉しいもんだ。

「あ、でもバジル君。俺に作ってくれたって事は、もしかして本命の人にも作ったの?」

それは単なる話の流れ、っていうか。思い付きで言った一言だったんだけど。

「はい。本命の方にはもう渡しましたよ」

まさかこんな答えが返ってくるとは、俺だって思わなかったよ。




綱吉は今朝の出来事を話し終えると、はいこれと二人の前に袋を差し出した。それは今朝バジルからもらった袋と同じものだった。

「バジル君から預かってきたチョコ。二人にだって」
「俺らにも作ってくれたのか」
「マメな奴だな……」

放課後の教室には綱吉と山本と獄寺の三人以外はもう残っていない。バジルは用があるとさっさと帰ってしまい、チョコを綱吉に預けていったのだった。

「バジルの本命ねぇ」
「まさかバジル君に好きな人がいたなんて……」

伊達に何年も友達をやっていなが、綱吉はバジルの口からその手の話を聞いた事がなかった。若干の好奇心。バジルの想い人とは一体どんな人なのか、想像してみる。

「きっとすんごい美人な子なんだろうな」
「そうなの?」
「なんつーか、純日本美人みたいな?あいつ日本大好きだし」
「美人っつーよりは、可愛い子の方がお似合いって感じだけどな」

山本と獄寺の言う女性像を頭の中で描いてみる。日本美人で、可愛い子。

「うーん……誰、っていうのに当て嵌められないなぁ」
「日本美人で可愛い子って、何気に大雑把だよな」
「日本美人はお前が言いだしたんだろうが」

バジルの想い人は一体誰なのか、考えても答えは出そうにない。とにかく一つ言える事といえば、あのバジルが好きになる子だ、よっぽどの美人で可愛い子なのだろうという憶測だけ。

「絶世の美女だったりして」

ぽつりと呟いた綱吉の隣で、バジルも隅に置けねぇよなあと山本が朗らかに言った。




こつこつと階段を下りるスクアーロは鞄を小脇に抱えながら昇降口を目指す。窓の外の夕焼け色を見つめながら自分の下足入れを開けた。開けてすぐ、自分の靴の上に見慣れぬ箱が置いてあるのに気付く。白いシンプルな箱、その上に添えられたカードには"外で待ってます。一緒に帰りましょう"と小奇麗な筆跡の文字が綴られていた。
今日のようなイベント事をスクアーロは好まない。周知の事実であるそれを侵してまでプレゼントを贈る輩はこの高等部にはいないはずだ。

箱は見慣れない、だが筆跡には見覚えがあった。

「遅かったですね」

昇降口を出てすぐ。邪魔にならないように隅の方にしゃがんでいたバジルはスクアーロを見上げて嬉しそうに笑った。

「名前を書かなかったので、気付いてもらえるか心配でした」
「こんな事する奴はお前しかいねえよ」

スクアーロの手にしっかりと握られた白い箱を見てバジルは幸せそうに微笑む。目の前の少年の友達から"絶世の美女"と称された男は、美女には似つかわしくない大きな掌でバジルの頭を引き寄せた。








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