今日はやけに通学路を歩く女子生徒達が浮足立っているな、とバジルは思った。制服を見てみてもそれは中等部と高等部の女子生徒両方に言える。はて、今日は何か女子にとって特別なイベントでもあっただろうか。

(ホワイトデーは明日だし……)

中等部の卒業式もまだ少し先だ。高等部は卒業式をとっくに終えてしまったらしいが、一、二年生は変わらず登校している。うーんと首を傾げる。けれどもすぐバジルは前を見直した。多分、己には関係のない事だろう。

校門をくぐると見慣れたクラスメイト達の姿が前方に見えたので、バジルは手を振った。




昼休みの事だ。高等部の校舎に足を運んでいたバジルは驚いた。校舎内がやけに慌ただしく、何事かと思えば中等部の女子生徒達がそれなりの数、殺到していたからだ。今朝から浮足立った様子はあったと思っていたが、ここまでくればバジルは察する。
こっそりと教職員用の昇降口から高等部の校舎へと入ると、靴を持ってぺたぺたと廊下を進んだ。別に中等部の生徒が歩いていても咎められる事はないが、目立つものは目立つ。それは避けたい。

こっそりと廊下を進む事数分、誰にも見つかる事無く目的地の階段に辿り着いたバジルは注意深く辺りを伺いながら階段を上る。上った先にある扉の前で足を止めるとポケットをまさぐり鍵を引っ張りだした。
以前貰ったこの扉の鍵だ。知り合いに頼んでスペアを作ってもらったらしい。
開け放った扉の先に広がるのは青空だ。くるりと周囲を見回すとフェンスに背を預けて座る銀色を発見。

「どうもこんにちは」
「お前か……」
「はい、大分お疲れのようですね」

近づいて隣に腰を落とす。気のせいではなく疲れているスクアーロはだりぃ、と愚痴を漏らした。

「忘れていました。そう言えばおぬし、女生徒達に人気があったんですね」
「……嫌味にしか聞こえねえぞ」
「嫌味ですから」

言えば、かわいくねーのと頭を叩かれた。可愛くあってたまるか、自分は男なんだとバジルは心中で呟いた。極力顔は見ないようにしていたが、それではここに来た意味がないと顔を上げる。
スクアーロは言わば被害者だ。今だって相当疲れた様子なのに己のつまらない感情で嫌味を言うのも気の毒に思えてくる。
今日は彼にとって、特別な日なのだから。

「スクアーロ」

呼ぶとのろのろと彼の瞳がこちらに向けられた。ポケットに忍ばせていた袋を眼前に差し出す。

「お誕生日、おめでとうございます」

スクアーロは驚いたように瞳を瞬かせる。本当に驚いたのだろう、おう、と彼らしくも無いぎこちない返事の後その袋を受け取った。珍しくうろたえているらしいスクアーロに、逆にバジルまで気恥ずかしくなってくる。熱くなった顔を隠すように俯いた。

「お前……覚えてたんだな」
「でなければ、わざわざここまで来たりしませんよ」
「そうか……」

ありがとよ、呟かれた言葉に驚いてバジルは顔を上げた。横を見れば彼はしげしげとプレゼントの袋を眺めている。その口元には――微かな笑みさえ浮かべて。
バジルは本格的に恥ずかしくなって、膝に顔を埋めた。たかだか誕生日プレゼントくらいで、そんな顔をするなんて。

「おい、」

ぐいと腕を引かれる。うわ、と倒れ込んだ先はスクアーロの足の上で、じっと見下ろされる。流れ落ちる銀色の髪に目を奪われていると、彼の唇が落とされた。
距離が、ゼロになる。

「午後はここでサボってけよ」

くく、と笑うスクアーロは酷く愉快そうであった。こっちにしてみたら不意打ちもいいところだ、と怒りたい気持ではあったが堪える。何せ、今日は彼の誕生日なのだ。多少の悪戯は大目に見よう。

「……サボるなら、お一人でどうぞ」
「帰すわけねえだろ」

また距離が近づく。
ぎゅっと目を瞑るとスクアーロが笑う気配がして、直後に唇を塞がれた。

深くなる口付けに、青空が滲む。










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