乱暴なキスだった。
後頭部を力任せに掴まれ無理矢理顎を持ち上げられて、天井を仰ぐ首に痛みを感じるよりも先に唇が食まれる。ぎち、と音が鳴るくらい深く合わせられたスクアーロの唇に、バジルは条件反射で噛み付いた。

「っ……!」

痛みに一瞬だけ口が離される。その隙を突いて彼の腕から逃げ出す。だが相手はボンゴレ最凶と謳われる暗殺部隊の一人だ、バジルの逃走を見逃してくれるはずはなく、扉に向かおうと背を向けた所を今度は後ろから羽交い絞めにされた。悔しいが力では敵わない、後ろから首を痛いくらいに持ち上げられ、また唇が噛みついてきた。背後からされる強引な口付けは態勢的にも苦しい。舌が無理矢理捩じ込まれバジルは閉じていた瞳を大きく開けた。

「んっ、んんっ」

顎と腰に回された腕を剥がそうと手を添えるもそれは大した力にはならず、むしろ体の拘束はさらに強くなりより深く唇が重なった。熱と滑りを持つ舌が無理矢理バジルのそれに絡み、まるで本当に食すかの如く貪られた。

「っふ、んぅ……っ、」

上下の歯茎、舌の裏側、口腔内の柔らかい側面、口という部位全てを飲み込むように、スクアーロは舌を這わせてくる。もう呻く元気も無い、バジルは深いキスを交わしながらも呼吸が出来るほど、大人ではなかった。目尻から涙が伝う。だが彼はそれを気にかける様子もなく、ただ只管に子供の口腔内を犯しつくした。バジルの唇からは溢れて嚥下し切れなかった唾液が流れる。それを指で拭われながら、ようやく口は解放された。

「っは、はぁ、は……」

酸素不足による眩暈からかずるずると膝が崩れる。背後から体を支えていたスクアーロも子供に合わせるようにしゃがみ込んだが、体までは離してくれないらしい。酸素を取り入れるのに必死なバジルの顎を、スクアーロがまた捉えた。再び熱が唇から注がれる。
口付けに意識が奪われる中、スクアーロの手がバジルのシャツの裾にかかる。素肌を伝う指の感触にはっとした。胸を弄る不躾な掌を追い出そうとバジルは躍起になるが、キスのせいか力が思うように入らない。スクアーロは唇を一旦離すとそのままバジルの首筋にそれを落としてきた。舌が這う感触は未知の物で、ひっ、と思わず悲鳴が飛び出す。

「あ……っ、ぁ……」

背後から肩に噛みつかれ舐められた。その間にも肌を弄る手は胸から腹筋へと移りベルトにかかる。それが外される音がしてもバジルは動けなかった。
行為に同意したわけではない、これから自分がどうなるのか察しがつかないわけでもない。ただ純粋に、恐怖だった。顔の見えない彼が何を考えているのかは分からないが、噛みつかれている肩からじわじわと恐怖が体に染み渡る。このまま本当に、文字通り喰らい尽くされてしまうのではないか、そんな馬鹿げた妄信に確かなる根拠を与えるだけの威圧感を、スクアーロは持っている。
怖い。こんなにも怖いと思ったのは初めてだった。

「っ……う、ぁっ!」

恐怖が五感を敏感にしているのか、熱と痛みは半端なものではなかった。見開いた瞳からぼろりと涙が溢れる。生理的に流れたものではない、恐怖心から流れた涙だ。

その後の事は覚えていない。剥がされた服の行方も自身を襲う熱と痛みも、浮かされるような熱さも途中からは分からなくなった。

ただ一つだけ覚えている。

床に倒され見上げた彼にどうして、と泣きながら問うた。彼は顔色一つ変えずにバジルの肩に再度噛みついてくる。

「待つのはもう、飽きたんだよ」

彼が今日初めて喋った言葉に、バジルはまた恐怖を感じて身を震わせた。










人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -