互いに仕えるべき、忠誠を誓った人がいる。この身体は組織のものだ、自分もスクアーロも。ならば迷う必要はない、自分と彼との間に何があろうとも、自分達は命があればそれに従い命をかける。それが自分達が選んだ、生き方だ。
だからリングを届ける命にも全力で挑み死力を尽くした。本気で彼と対峙した。恐怖は無い、あるのは使命感。例え死がこの身に訪れようとも任務を遂行させる。彼も同じだ、だから彼によって刻まれたこの身体の傷も何て事はない、ただの結果だった。

それでも、病室のベッドの上に横たわるスクアーロを見た時、心と体を支配したのは安堵の他になかった。信じられない思いだった、彼の死を目の当たりにした時ほどこんなにも動揺は無かったと思う。ただ後になってから、喪失感と虚無感がじわじわと体を蝕み心に深い杭を穿っていった。それが今、ゆっくりと消えていく。

「スクアーロ……」

呟いた名は震えていた。思わず自分で笑い飛ばしたくなるほどだったが彼が瞳を開け、確かに自分を視界に捉えた時、それは涙となって両目から零れた。止まる術を知らないそれはぽたぽたとシーツに染みを作り彼は驚いたように首を動かす。震える体を制して動かない声帯の代わりに腕を伸ばして包帯の巻かれる頬に触れた。

「……泣いてんのか?」
「っ、貴方のせいですよ……」
「そりゃ光栄だな」

変わらない軽口、彼が確かに生きていてここで鼓動を刻んでいる、その事実に堪らなくなった。号泣と称しても間違いではない泣き顔を両手で覆う。拭っても意味は無い、せめて声だけは堪えようと喉の奥に泣き声を飲み込んだ。

「……それじゃあ顔が見えねぇだろ」

右手が手を攫っていった。こんな顔見られたくはない、けど今の彼がそれを望むなら拒む理由は無い。恥を忍んで泣き顔を晒す、スクアーロはふと微かに微笑を浮かべた。

「痛み……ますか」
「もうどこが痛いのか分かんねぇくらいにはな」

思うように動かない体で、スクアーロは右手を動かした。後頭部に添えられた彼の手に力がこもる。意図を察して体を横たわるスクアーロに寄せた。

「……満足に抱いてもやれねえな」
「今は、自分の体の事だけ、考えて下さい」

生きた心地がしなかったんです、不用意にもそこまで心中を吐露してしまうと、彼は一瞬だけ目を見張る。ぎこちない動きで頭を乱暴に撫でられた。こんな風に触れ合った事は、多分自分達は一度だって無い。互いに傷ついて感傷的になっているのか、それでも今は彼の掌を感じていたかった。

「不謹慎、かもしれませんが」

貴方が生きていてくれて、拙者は嬉しい。

スクアーロは今度こそ驚いた顔をした。右手が涙で濡れた頬を拭ってくれる、それにまた涙が浮かんだ。悪循環だ。

「バジル、」

多分、名前を呼ばれたのもこれが初めて。

「死に損なったのは、お前のせいかもな」

今度こそ彼の胸に顔を埋めた。










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