始まりは簡単だった。切欠があったのかと問われてもよくは覚えていない。ただ、それが惰性と化すまでは本当に簡単だったのだ。
一重にそれは、暴力だった。

「っ、ぅあっ、」

ガタン、と縋りついたロッカーが音を立てた。声を上げそうになって反射的に口元を手の甲で押さえる。不用意に声を上げれば、それだけで背後の彼は機嫌を損ねてしまう。その後の仕打ちが自分にとってどんなに酷いものか、こうした関係になってから早々に桜井は理解していた。

「ふっ、くっ、あ、ぁ……」

どくりと、既に何度目か分からない絶頂を迎える。それと同時に後ろから桜井を犯し続ける青峰も達したようで、中に熱が広がった。
既に桜井の体力は限界で、腰を抱えられているからといっても立っているのは苦しい。部活が終わった後から今まで何時間、こんな事をやっているのだろうか。ちらりと目をやった部室の窓は既に黒く染め上げられていた。

「よそ見、してんじゃねえよっ」
「ひっ、いぁっ!」

もうこれで終わりだろうと思っていた桜井を裏切るように、青峰が再び動き出す。青くなった顔で振り返ると、青峰は桜井の怯えた様子に気づいたのかはっ、と嘲る様に笑った。

「誰が終わりなんて言ったよ」
「けど、もう……」

無理、そう告げようとした桜井の唇は獣のようなキスによって塞がれる。快楽を引き出すのではなく、貪るのみの口付けは桜井に呼吸すら許さない。酸欠と体力の限界とで、とうとう桜井の体はがくんと崩れた。

「なに、お前もう駄目なワケ?」

呆れたように呟く青峰は、仕方ないと言わんばかりに桜井を抱えたまま腰を下ろした。青峰の胸に背中を預ける恰好で桜井は荒い息を繰り返す。座った事でさらに深く熱が穿たれる事になったが、声を出す事さえも億劫だった。

「もうちょい付き合えっての」

体をどさりと床に転がされた。バックの態勢になった事に気付いて慌てるが桜井の抵抗など青峰にとって取るに足らないものだ。そのまま律動が再開させられ、桜井はとうとう耐えきれなくなり悲鳴を上げた。

「あっ、あぁっ、ゃ、だ、嫌ぁっ」

生理的ではない涙もとめどなく流れるが、所詮は口先だけの抵抗だ。そしてそんな桜井の願いを聞き入れてくれるほど、この青峰と言う男は優しくは無い。

入学してすぐだった。彼に目を付けられた理由を、桜井は未だに理解していない。ただ青峰の気まぐれで呼び出されて体を良いようにされる。そこに桜井の意思は存在しない。この世で最も理不尽な暴力によって、全てを奪われたのだった。
自分の思い通りにいかなければ容赦なく乱暴に扱われ、抵抗すれば殴られる。彼の趣味なのかは分からないが、道具を使われる事もあった。酷い時には薬まで飲まされ、その時の事は桜井にとって一番辛いものとして体に刻まれている。

そうして繰り返された意味も無い不健全な行為によって、青峰と言う存在は桜井にとって完全な恐怖として植え付けられた。部活の時も、教室に居る時も、びくびくと彼の姿に怯えている。怯える事しかできず、逃げる事は許されない。助けなど、一体誰に求めればいいのだろうか。

「っ、う、ふっ……」

涙が止まらなくなった。訝しんだのか青峰の動きが止まる。ぐるりと体を仰向けに返され、顔を覗きこまれた。

「…………」

青峰は何も言わなかった。ただどういう気まぐれか気が失せたのか、ずるりと桜井から出行く。ようやく終わるんだ、その思いが気を緩ませたのか桜井の意識は徐々に遠のいていった。
涙の跡を舐め取る青峰の行為には、一体どういう意味があったのだろう。















「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -