なんか動きがおかしいと、青峰は思った。
視線の先ではコートの中でミニゲームが行われている。練習の一環だ。青峰は珍しくも部活に参加してはいたが、ミニゲームには参加していなかった。ステージを背に座りこんでいる。
やる事も無ければ必然的に、目の前のミニゲームに視線がいく。その様子をぼんやりと眺めていて思ったのが、冒頭のそれだ。

青峰が視線を注いでいるのは桜井だった。いつもより動きが遅いというか、もうバテてしまった感じだ。
あいつあんなに体力ない奴だったけと思うが、それはないと思う。ゲームが始まってまだ十分もたっていない。いくらなんでもバテるのは早すぎだ。

桜井がパスを受ける。比較的青峰に近い、コートの端に立っていた桜井はそこからシュートを放った。ボールは放物線を描き一直線にリングへと落ちる。
ゲームに参加している部員たちは、当然の事ながらボールを目で追っていた。だから青峰以外に、異変に気付く者はいなかった。

(あ、)

ボールがガコン、とリングに入った瞬間、糸が切れたようにして桜井の体がその場に崩れ落ちる。
倒れた彼はぴくりとも動かない。

(マジか)

青峰は立ち上がる。他の部員達も一拍遅れて桜井の異常に気付いたようだった。
桜井の一番傍に居た青峰は、彼の肩をつま先でつついてみる。

「おーい良、どうしたー」

敢えて呑気な声で尋ねるが、桜井から返事は無い。指先がピクリと動いただけで大した反応を示さない彼に、青峰はしゃがみ込んで手をかけた。横向きに倒れていた体を頃がして、仰向けにさせる。
他の部員達もようやく集まってきて焦ったようにどうした、と声をかけていた。

汗の量が異常で、息が荒い。まさか本当にバテたのかと思い青峰がぺしぺしと頬を叩くと、薄らと桜井の眼が開かれた。青峰君、と喘ぐような息の中から聞き取りづらい小さな声が聞こえる。

「……さ、むい……」

残念ながら青峰の耳で拾えた桜井の言葉はこれだけだった。だがそれだけでも十分と言えた。
あ、こりゃ完璧に不味いと察知した青峰は苦も無く桜井の体を抱き上げる。突然の行動に目を丸くしたのは周りに集まっていた部員達で、青峰は「保健室行ってきまーす」と勝手に体育館から出て行った。
非難の声は聞こえない。おそらくそれが今の桜井にとってはベストな選択だと、だれしもが思っているからだろう。

抱えた体を見下ろす。背の割にあまり重さを感じない。顔中が真っ赤で吐く息も荒く、意識も遠そうだ。触れている青峰には桜井の体が異常に火照っているのが分かるが、当の本人は寒いと寒気を訴えている。
熱があるにもかかわらず部活に参加していた桜井に、呆れてため息も出なかった。

「お前馬鹿だろ」
「すいま、せん……」
「謝んな。あー馬鹿、マジで馬鹿」
「……っ、」
「心配掛けてんじゃねーよ、ばーか」

ごめんなさい、と再び小さな謝罪が聞こえた。それに今度こそ呆れてため息を吐く。
桜井の手が不安げに、力なく青峰のシャツを掴んだ。顔を胸板に押し付けて体を震わせる彼に、またばーかと言い捨てる。

「次に謝ったらマジでキレっぞ」

保健室への道を歩きながら、そういやこれがお姫様だっこって奴か?と、青峰はようやく気が付いた。














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