部活の休憩時間だった。
蛇口から勢いよく流れる水で顔を洗っていると、背後から伸びてきた腕に腰を拘束される。次いで左肩に激痛が走り、持っていたタオルを取り落としてしまった。
「っ、えっ!?」
痛みに眉をしかめるが、痛みの原因とも言える人物は桜井の腰を抱えたまま、離そうとはしない。
「あ、の……何してるんですか、青峰君」
「噛んでる」
「えっと、何で……あ、いえスイマセン」
ぎろりと肩越しに睨まれたので咄嗟に謝罪を口にする。だがよくよく考えてみると謝ってもらうべきなのは自分の方なのではないだろうか。しかし、それを口にするだけの勇気は、桜井は持っていなかった。
そもそも、何故彼に噛みつかれているのだろう。怖いし、痛い。
「青峰君……痛い、んですけど」
「だって痛くしてるし」
また深く噛まれてうあっ、と悲鳴が口から飛び出す。
怖い、本当に怖い。早く離れてくれないだろうか。ここで下手に抵抗してさらに酷い事をされるのは怖かったので、桜井はただじっと、青峰がこの行為に飽きてくれる事を願った。
その祈りが通じたのか、青峰は直後にあっさりと口を離した。だが体を抱える腕はそのままで、依然桜井の動きは封じられている。
おそらくくっきりと歯形がいてしまったのだろう箇所を舐められて、ぶるりと体が震えた。青峰は、なんつーかさ、と耳元で内緒話でもするかのように、囁いた。
「お前の肩、美味そうだったからつい」
そう語る青峰の表情は桜井からは分からない。
だが、想像の中の彼が酷く危険な笑み浮かべた気がして、桜井の背筋は凍りついた。