「お前って意外と鈍臭いのな」

コートに立ってる時とは大違い、そう桜井を揶揄するのは青峰だ。一体いつから見られていたのか、桜井は痛む足と腰を摩りながら慌てて立ち上がる。

「あ、青峰君、いつから……」
「ついさっき。お前がそこで盛大にすっ転んだ辺りから」

下り階段の手前を指差しながら青峰は言った。
つまり最初からじゃないか!叫びたいけれど叫べない、相手が青峰ならば尚の事。醜態を見られてしまった羞恥と青峰に元から抱いている恐怖心とがごっちゃになる。
だが今はそれよりも何よりも、転んだ時に打った腰とひねった足が痛い。運び終わったら保健室行こうかな、そう思いながら散らばったプリントを手に取った。

「つか、なにこの紙」
「あ、えっと、さっき担任の先生に頼まれて」
「ふーん」

桜井に合わせてしゃがみ込んだ青峰の近さに若干体を震わせながらも、何とかプリントを全て回収する。結構な量だ、ホームルームで配るから運んでくれと頼まれ断るに断れないお人好しの桜井は、安請け合いしてしまった事を今更ながらに後悔していた。

(……転んじっゃたし)

プリントでうまく足元が見えず、階段の手前で転倒した。それだけならまだしもその場面を青峰に目撃されてしまったのだ、こんな事ならば引き受けなければよかったと今になって思う。

「あの、それじゃ、僕はこれで」

気まずい空気の中、未だにその場を動かない青峰にぎこちなく引きつった笑みで声をかけ、今度こそ転ばないように階段を下りた。一段一段慎重に、本当に今度こそ転ばないように。

「良、」

だがそんな桜井の努力は、肩を掴んでくる青峰の手によってあえなく打ち砕かれた。力任せに引っ張られて振り返ると、青峰の顔が近づく。
そのまま唇が、触れた。

「――――っ!?」

反射のようなものだった、とにかく青峰から距離を取ろうと腕を突っ張る。結果、階段と言う足場の不安定な場所で態勢を崩してしまう。
後に残ったのは耳の奥に響くような衝撃と、体を打ちつける鈍い痛み。
体が浮く感触が、した。

「……あ、え?」

目を開けると、今さっきまで自分が立っていたはずの階段は目の前にある。どうやら踊り場まで落ちたらしい、と桜井が認識するのと同時に、ひらひらと目の前を白い紙きれが横切った。
桜井の腕は空っぽだ。抱えていたはずのプリントは、そこかしこに飛び散っている。踊り場の窓が開いていたのも不運だった、どうやら外に投げ出されたプリントも少なくはないらしい。

「う、そ……」

下の階まで落ちてしまったプリントを目で追いながら呆然とする。これ全部拾い集めるのに、一体どれくらい時間がかかるだろう。多分絶対、ホームルームには間に合わない。
そこでようやく、桜井と同じように階段から落ちたらしい青峰が体を起こした。落ちたのに体があまり痛まないのは、彼が庇ってくれたからだろうか。

彼はため息をつくと、神妙な面持ちで青ざめた桜井を見る。

「……お前って、マジで鈍臭い奴だったんだな」

そう言う青峰の表情と口調には憐憫の情がありありと滲みでている。可哀想な者を見るような目つきの彼に、桜井は庇ってくれた礼を言うのも忘れて涙目で叫んだ。






「同情なら要りません」




(だ、誰のせいでこんな……!)
(あー、悪かった悪かった俺が悪かった)
(っ……)
(たく、俺も手伝うから泣くんじゃねえっつーの)
(…………スイマセン)




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(Blue*Cherry-blossom)











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