マジバで偶然出くわした、わけではない。そもそも黄瀬の通う学校はここからとてつもなく離れている。帰り道に寄る距離ではない。
では何故、今俺は黄瀬と向かい合ってハンバーガーを食べているのか。

理由は簡単、俺がこいつをここに連れ込んだからだ。

「今の青峰っちはね、昔の俺と一緒なんスよ」

帰り道に寄る距離ではないが、仕事で寄る距離の範疇ではあったらしい。その辺でばったり出くわしたのは偶然だった。モデルの仕事の帰りなのか、黄瀬は私服だった。学校はと尋ねると今日は午前授業っス、と返され部活はと尋ねると仕事があったから途中で抜けた、と返された。

んで、何となくそのまま別れるのもアレかと思って、今に至る。

「俺さ、こう見えてスポーツは割と何でも出来るんスよ。んで出来すぎて周りの奴らが相手になんなくて、中二の頃とかすんごい退屈がピークだった。そん時に青峰っちと会ったんス」

シェイクを飲みながら語る黄瀬の視線は俺ではなく、ガラス窓の向こう側に向けられている。多分、何処かを意識して見ているわけじゃない。見ているのは外の風景でも俺でも無くて、

「青峰っちが、俺を変えてくれた」

(青峰、なんだろうな)

嬉しそうに、懐かしむ様に、楽しそうに青峰を語る黄瀬の話を、俺は黙って聞くのみだ。
面白くない、とは思う。けれど仕方ない、と諦めている部分も心の何処かにはあった。

黄瀬は結局、青峰しか見ていないのだから。

「青峰っちに憧れてバスケ部入ってからは、そりゃもう毎日楽しかった。それまで感じてた退屈なんて全部吹っ飛んで、マジで心の底から燃えられた。けど、青峰っちは違ったみたい」

そこで一瞬見せた悲しげな笑み。こいつの脳内には今どんな思い出が浮かんでいるのだろうか。

「俺は楽しかったけど、青峰っちはつまらなくなったって。バスケ、楽しくなくなったんだってさ」

カラン、と黄瀬が紙コップをトレイの上に放った。多分飲みつくしたのだろう、俺は黄瀬に向かって自分のハンバーガーを一つ、投げる。受け取った彼はサンキュ、と、ここでようやく俺の方を見た。

「だから今の青峰っちは昔の俺と一緒で、退屈してるんス。出来る事なら青峰っちが俺にしてくれたように、俺が彼の退屈を消してあげたかったけど、俺には無理だから」
「んな事ねえだろ」
「無理っスよ絶対。あいつは俺の事見てないし」
「けど好きなんだろ」
「……」

直球でそう言ってやると黄瀬は黙りこくった。こいつは本当に、分かりやすい。

(そんで鈍感ときたもんだ、マジ腹立つ)

黄瀬と俺を繋ぐのはバスケだ、それ以外にはない。けれど俺はそれ以上の繋がりをこいつに求めている。
まあ多分つーか絶対、黄瀬はそんな事には気付いてないだろうけど。

(こいつは呆れるくらい青峰しか見てねえからなあ)

本当に馬鹿だ。こいつも俺も。

「……火神っち、」
「んだよ」
「もう一個下さいっス」
「自分で買えよ……」

そう言いながらも、俺は結局黄瀬にハンバーガーを投げつけたのであった。


(こんなのに惚れた俺が馬鹿なんだ、きっと)















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