散々居残り練習に励んだ本日放課後。部室に忘れ物をしたのを思い出して引き返した。
辺りはもう暗い。日は大分延びたはずなのにこんなに暗いという事は、それだけ今が遅い時間だという事だ。

一緒に居残って練習していた黄瀬を待たせるのも悪いと思って、俺は早足に部室から出た。部室の外で待っていた黄瀬は何処かぼんやりとした表情でグラウンド眺めている。
グラウンドには未だ残って練習をしているサッカー部員が何人かいるだけで、他には特に何も見受けられなかった。

黄瀬に近づいてみるが、俺の接近に気付いていないのかグラウンドから視線を外さない。何となくつまらなくて、後ろから頭をタオルで叩いてやった。

「いってー!!」
「間抜け面して立ってるからだよ」
「だからって不意打ちは卑怯っス!」
「ってかこんだけ近づいてんだから気付けよ」

大袈裟に痛がってみせる黄瀬に軽く笑うと、黄瀬は肩を落として再びグラウンドを見た。

「グラウンドに何か面白いもんでもあんのか?」
「いや、別にそういうわけじゃないんスけど……」

不意に言葉を切った黄瀬は、その場にしゃがみ込んだ。俺はこの時になってようやく、黄瀬が見ているのはグラウンドではなく、サッカー部員なのだと気付く。

「……もし、青峰っちみたいなのがサッカー部に居たら、俺今頃サッカーやってたのかなーって思って」
「はあ?」

いきなり何を言い出すかと思ったら、そんな事かよ。わざとらしくため息をついてみせると、黄瀬はちらりとこちらを見上げた。

「なんスかそのため息」
「いや、くっだらねーなーと思って」
「俺はこれでも結構真面目に考えてんスよ!」

ぎゃーぎゃー喚きだした黄瀬にもう一度ため息、こいつとのバスケは中々楽しいけど煩いのが欠点だ。
がしっと黄瀬の頭を掴んでぐりぐりと乱暴に揺すると、痛いっスと情けない悲鳴が上がった。

「いいか、とりあえず言っとくけど」

黄瀬の目線に合わせるように、しゃがみ込む。

「俺みたいなのがそうそうその辺に転がってるわけねーだろ」
「仮定の話しっス!ってかどんだけ自分に酔ってるんスか」
「酔ってねーよ。ってかさ、その仮定そのものが意味ねーだろ」

じっと黄瀬の瞳を真正面から見つめる。俺の言葉の意味を測りかねているのだろう、きょとんという擬音が似合いそうな顔を黄瀬はしていた。

「お前がサッカーとかもったいねーよ。俺がいようがいまいがバスケやった方がいいって絶対」
「え……それって、」
「分かったかこの馬鹿」

立ち上がる間際にデコピンを一発お見舞する。黄瀬の口から再びいてー!と悲鳴が上がったが気にしない。俺はそのまま黄瀬を置き去りにして歩き出した。

「ちょ、待ってってば青峰っち!」

追いかけてくる黄瀬を振り返ると、どことなく嬉しそうな顔して笑っていたから、追いついてきたそいつの頭をもう一度タオルで引っ叩いた。

「ちょ、さっきから暴力的すぎっス青峰っち!」
「うるせーよ、殴られたそうな顔してるお前が悪い」
「そんな顔してないっス!」

ぎゃーぎゃー騒いで、部活で散々疲れ切ったのも忘れて、肩を並べて校門を出る。
見上げた空にはちらほらと星が瞬いていて、隣では黄瀬が相変わらず上機嫌で。

「……ってか、サッカー何か似合わねえよ」
「ん?何か言ったっスか?」
「いや、なんでもねー」

割と充実した毎日。その毎日の一部である黄瀬がいないなんて、仮定の話だとしても考えられない。

(やっぱこいつはバスケやるべきだ)

これ以上隣の奴が調子づくのはうざいから、絶対口には出さないけど。














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