「黄瀬君は僕の事好きじゃありませんよ?」

何言ってるんですか火神君、と心底不思議そうな眼でそう返されて俺は何も言えなくなった。

いや、だって、どっからどう考えても黄瀬はお前の事好きだろ?
むしろあいつの態度はわかりやす過ぎるぐらいだ。黒子は鈍感ではない、黄瀬の想いになどとっくに気付いた上で、ああしてあしらっているんだと思っていた。

俺が思った事を素直にそう口にすると、それは全くの見当外れですと黒子は切り捨てる。

「黄瀬君が見てるのは僕じゃないです。僕の光だった青峰君です」
「はあ?」
「僕を通して、黄瀬君はかつての青峰君を見てるんですよ」

黒子の口調は相変わらず淡々としていたが、その口ぶりが決して嘘を語っているのではないと言う事だけは俺にも分かった。だが、正直なところそんな言葉は信じられるものではない。

「嘘だろ」
「嘘ついてどうするんですか」

まあ確かに、それもそうではあるが。

「それに、火神君にだってそうですよ」
「俺?」
「黄瀬君、やたら火神君の事見てます。気付いてるでしょう?」
「まあ、そりゃなあ……」

黒子に対する視線ほどではないが、俺も黄瀬から向けられる視線には気付いていた。ただの友人やバスケ仲間、もしくは敵プレイヤーに向ける視線としては少々鋭い、よく分からない視線。
俺はてっきり敵視している視線かと思っていたのだが、黒子に言わせるとそうではないらしい。

「あれも同じです。黄瀬君は火神君を通して青峰君を見ている」
「……なんで俺を通して青峰になんだよ」
「君が似ているからですよ。昔の青峰君に」

真っ直ぐでひたむきで、馬鹿みたいにバスケに明け暮れていた、あの時の彼に。

黒子が語る言葉は透明だった。なんの感慨も伝わらない。それが余計に、言葉の真実味を際立たせる。

「そして、僕と火神君のプレイから、黄瀬君は昔の青峰君を見出そうとしています」
「……」
「彼が僕に鬱陶しいくらいに付きまとうのも、火神君を見つめているのも、僕らのプレイを食い入る様に観戦するのも、全部が全部、青峰君に通じる何かを求めているからですよ」

あの人は心底、青峰君に惚れているんです。

それがバスケの能力に大してなのか、人間性に対してなのか、それとも恋慕的な意味でなのかは、俺には分からない。けれど黒子の言葉に全て納得がいったのも事実だった。
確かに、黄瀬はいつも明るく調子のいい風を装ってはいたが、実際の奴の関心が別の場所に向けられているというのには気付いていた。ここにいるくせに、ここではない何処かを見ているかのような、そんな違和感。
それが時折見え隠れしていた。

「黄瀬君のあのキャラは作り物です。実際は打たれ弱い人なんですよ」
「あー……それはなんか、分かるかも」

今はもう目の前に居ない誰か、黄瀬が惚れこんだという当時の青峰、それを無意識に、奴は求めている。

「なんつーかさ、」
「はい?」

言いようのない感覚、こういうのを言葉にするとなんて言うんだけ、と俺は首を傾げた。けれど結局今の心情を現すにふさわしい言葉は思い付かなくて、

「ちょっと、若干、不愉快かも」
「……僕もそうかもしれません」

結局口にできたのはそんな言葉だけだった。














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