生徒会室へ向かう途中の廊下でふと足を止めた。窓際に寄ると見慣れたピンク色の髪の毛が見えて、ああそらそらだと思った。次いで視界に入ってきた頭は灰色、じゃなくて銀髪。(前に、ぬいぬいは灰被ったみたいな頭だな!と言ったら思いっきり殴られた)
そらそらとぬいぬいは人目に付かない木の陰で、向き合って何か口論しているようだった。珍しい、と思う。あの二人が本気で言い争う姿は少なくとも俺は見た事がない。

(喧嘩してんのかな)

そらそらがぬいぬいを憧れ以外の感情で見つめている事も、ぬいぬいがそらそらを愛おしげに見つめている事も、俺は知ってる。気づいてないのは多分当人達だけ。じれったい事この上ない、書記もこの間それっぽい事言ってた。けど俺もそう思う。大胆な行動派のぬいぬいにしてみればやけに慎重すぎる。そらそらは元から動く気がまるで無いみたいだからぬいぬいから仕掛けなければ絶対にくっつかないだろうに。

(ぬいぬいも早く言っちゃえばいいのに……)

そう思った時、不意にピンク色が散って俺は目を見張った。ぬいぬいが、そらそらを思いっきりぶん殴ったのだ。しかもグーで。よっぽどの喧嘩、だったのだろうか。
そらそら痛そうだ、なんて思っていた俺にさらなる衝撃が届けられる。なんと反撃だと言わんばかりにそらそらがぬいぬいをぶん殴った。手加減は一切無しで。殴った音がここまで聞こえてきそうなほど、見ていて痛々しい光景。けど痛いだろうな、という思いよりはやっぱり驚愕の方が強い。

あの二人が手を出しあう姿など、誰にも想像できないだろう。

そらそらは見ての通り物腰柔らかで優しいし、ぬいぬいだって大人だから何だかんだ言っても本気で暴力を振るう事は無い。そんな二人の印象が一瞬にして崩れていった。しかも俺の目の前で。
そらそらは何事かを叫んだ後走り去って行った。上からだからよくは分からないけれど多分泣いてる。その場に残されたぬいぬいは八つ当たりのように校舎の壁を殴った後、そらそらとは違う方へ消えていった。

(……今日は二人とも来ないかな)

四人でいるのが当たり前の生徒会室、けどあの二人は今日はこないかもしれない。一体何を言い争っていたのかは分からない、けれどよっぽどの事なんだろうとは思う。俺には口を出せないくらいに。
喧嘩は好きじゃない、あの二人にも笑顔でいてもらいたい、だから俺は気を取り直して歩き出した。もし二人が来たら、今日は俺がお茶を淹れてあげよう。んでもっていつもみたいに俺が笑顔を振りまくんだ。ちょっとでも、少しでも、二人が笑ってくれるように。

(でもやっぱ、羨ましいな)

本気で殴りあうくらいに、互いを想い合う二人が。喧嘩は好きだからするんだって、じいちゃんも書記も言っていたけど。

「俺にもいつか本気で喧嘩できる人、出来るかなー」

ぬははっ、と笑った俺の眼先にちょうど現れたそらそらは案の定殴られたほっぺたを真っ赤に腫らしていて、俺は気遣うよりも先に不細工!と叫んでいた。

「……翼君、後で黒板の刑ですよ」
「ぬはっ!そ、それだけは勘弁ー!」

何も知らない俺だからこそ、出来る事ってあると思うから。
生徒会室に着く頃にはそらそらも笑ってくれたから、俺は先程決意した通りにお茶を淹れてあげた。ぬいぬいも来るといいな、そう願って。










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