「むなしい事やってたんだなぁ」
珍しく机に座って仕事をしていると思ったら、会長はぽつりとそう漏らして目を通していた書類を僕に見せた。何年か前の学校行事の内容らしい、題目には「第八回女装コンテスト」と書かれていた。
「何ですか、これ」
「昔の生徒会主導の行事だよ。女子がいないからってここまですることないのにな」
よっぽど潤いがなかったらしいな、会長は他人事のように笑う。まあ実際他人事だが。
会長は楽しげに笑っていたかと思うと唐突に口を開いた。その顔は何かよからぬ事を企てている時と同じもので、僕はまさかと顔をしかめる。
「これ、今度やってみようぜ」
「却下です」
やっぱり、呆れるのも馬鹿らしい会長の思い付きだ。即答して意見を切り捨てるも会長は僕の声など聞く気がないのかまべらべらと語りだす。
「男装女装コンテストって事にしてさ。どいつの女装が一番か男装したあいつに選んでもらうんだよ」
「彼女も参加させるんですか」
「当たり前だろ?貴重な女子だしな。選ばれた奴はそのままの格好で一緒に校内一周デートだ」
中々楽しそうだろ?そう笑う会長にやっぱりため息しか出ない。一体誰が得をするのか、そんなイベント。学園の紅一点である彼女に想いを寄せる男子にとってならば、まあ美味しいかもしれない。けれど女装をして、というのがどうにも引っかかる。女装してまでデートをしたがる生徒などいるのだろうか。
「結構いると思うぜ、女装の似合う奴」
「選ばれても微妙だと思いますよ、それ」
「そうか?」
そうですよ、と書類を纏めた。もうこの話はここで終いだと言わんばかりに立ち上がる。くだらない話に付き合っていたら進む仕事も片付かない。
「あ、でも」
「なんですか」
まだ何か?そう言いたげに振り返ると会長は実に真面目な笑顔で言った。
「お前ならきっと、綺麗だろうな」
ばさっ、と纏めた書類を顔面めがけて投げつけた。馬鹿な事を言うなと心の中で叫んで。
(嬉しくなんか、ないのに)
何故だか顔が火照るのを止められなかった。