もう辺りは薄暗く生徒会室も薄い闇のベールに包まれていた。今一体何時なのだろうと思案したところで首筋の痛みに意識が引き戻される。見下ろしてくる碧眼の鋭さに体が自然と強張った。

「颯斗……」
「……っ」

また肩に噛みつかれる。
放課後いつもより遅めに生徒会室に行くとそこには誰の姿もなかった。正直翼君とも会長ともどんな顔で会えばいいのか複雑だったから、無人だった事に無意識のうちに僕は安堵していた。仕事を片付けて早く帰ろう、そう思っていた矢先だった。遅れて生徒会室に入ってきた会長は僕の姿を見るや否や、ソファに押し倒したのだ。見上げた瞳は真っ直ぐで、けれどどこか冷えている。冷汗が一気に噴き出した。

「会長……」
「飲んだんだな」

唐突な物言いに一瞬だけ何の事かと戸惑うが、すぐに彼が何を言っているのか理解した。会長は、知っているんだ。僕が翼君の血を飲んだという事を。
何故知っているのか、疑問が浮かぶが会長の表情に息を飲む。彼の表情には滅多に見せない怒りがはっきりと浮かんでいた。

「俺以外の奴から、飲んだんだな」
「っ……!」

ぎり、と痛いくらい肩を押さえつけてくる腕から逃れようと身を捩るも、会長はその僕の行動が気に入らなかったのか本格的に圧し掛かってきた。乱雑にブレザーのボタンが外され、無理矢理シャツを引き裂かれた。

「会長……っ、嫌だ……!」

乱暴さが、怒りが、会長の全てが怖くて抵抗する。けれど態勢的に僕の不利は明確で、会長は僕の些細な抵抗をあっさりと捩じ伏せると自身の左袖を捲くった。彼はそのまま自分の腕に、僕にもわかるほど深く噛みついた。何を、と驚く僕に会長はそのまま口付てくる。

「んっ……!?」

ぬるりと舌が入り込む。縦横無尽に動き回るそれは好き放題僕の口腔内を荒らし回るが、それよりも舌と一緒に流れ込んできたどろどろの液体の方に意識が行ってしまう。
血、だ。会長が自らの腕を噛んで流れ出た血液。

「ふっ、ん、っんぅ……!」

血と唾液の混じる激しいキスに息苦しくて、喉に流れ込む血は確かに美味しいのに苦しい。美味しいと感じる自分に、また自己嫌悪が募る。
唇がようやく外され急に入り込んできた外気に噎せ返った。酸欠で浮かんだ涙越しに会長を見上げると、彼も肩で息をしていた。充満する血の臭いに頭がくらくらする。

「……お前は、俺の血だけ飲めばいい」

熱っぽい吐息混じりに耳元で囁かれて背筋が震えた。そのまま熱い舌が耳の形をなぞるように這わされて、僕の口からは勝手に声が漏れる。首筋にまで降りてきた唇は肩で止まると急に牙を剥いた。

「っあ!」

強くきつく、歯が立てられる。牙が食い込む痛みに薄れていた恐怖が戻ってきた。会長も、僕に噛まれる度にこんな痛みを味わっていたのだろうか。そう思うと、自然に涙が溢れた。
血が出るほど強く噛みつかれたのか、肩から血が伝う感触が、した。

「颯斗……好きだ、颯斗」
「一樹、会長……」

好きだ、を繰り返し告げる彼に抗う事も忘れて見入る。先ほどまで浮かんでいた怒りの代わりに、どこか悲痛なその声は僕の心を揺さぶった。不安定なのは、きっと彼の方なのだと気づかされる。

「颯斗……」

また肩に噛みつかれる。今度は肩だけではなく腕や脇腹にまで歯が立てられた。会長の手がベルトを抜き去っても、僕は抵抗できない。できないのではなく、しなかった。

「っあ、ぁ、っんぅ……」

熱と血と肩の痛みに思考が麻痺していく。僕の体を穿ちながら会長は僕の肩に歯を立て続けた。

ずっと自分の血が憎かった。吸血鬼と呼ばれても仕方のない、この血に対する欲求、飢餓を感じる自分がたまらなくおぞましく、気持ち悪く、憎かった。こんな自分など消えてしまえばいいと何度思っただろう。そして僕のこの血が、吸血衝動が、会長を、翼君を、狂わせてしまった。どうしてこの血を持って生まれたのが僕だったのか、考えてもどうしようもない事を考えた。答えなんか出ない。

僕の血で口元を汚す会長の方が吸血鬼のように見えて、静かに涙を流した。





091230






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