「ね、そらそらって吸血鬼なの?」

かちゃん、とティーカップを取り落とした綺麗な彼はえ、と動揺を隠さずに瞳を見開いた。やっぱりと心の中でほくそ笑む。

「あ、当たりだった?」
「ど、して……」

じり、っとテーブル沿いに体を動かして彼に近付く。「遊びにきた」と笑った俺を何の警戒もせずに自室に招いたこと、多分後悔してるだろうなと考えながら、固く握り締められていた彼の白く細い指を握った。

「前にね、そらそらとぬいぬいが生徒会室で抱き合ってるの見掛けてさ。何してるんだろって思ったらそらそらぬいぬいの肩噛んでんだもん」

それがさ、まるで吸血鬼みたいだったんだよね。笑みを絶やさず言い切ると、彼はうつむいて唇を噛み締めていた。図星を突かれて何も言い返せない、ってとこだろうな。ちらりと必死な色を滲ませながら見上げてくる彼に何?とわざと尋ねた。

「翼君……あの、できればその事は……」
「ん?心配しなくても、誰にも言ったりしないよ」

ぬははっ、といつものように笑ってみせると彼は目に見えてわかるくらい安堵の表情を浮かべた。肩の力を抜いて脱力した瞬間を見逃さない。

「だから、さ」

手を握っていたのとは逆の腕で彼の二の腕を引っ張り、その体を床に押し倒した。カーペットと同じピンク色の髪の毛が散る。目を真ん丸に見開いた彼の耳に唇を寄せた。

「……俺の血も飲んでよ」

瞬間、びくりと彼の体が硬直する。驚きの他に恐怖の色を宿らせ、彼はどうして、と震える唇を動かした。

「だってさぁ、ぬいぬいの血吸ってるそらそら、綺麗だったんだもん」
「きれい、って……」
「すんごい色っぽい顔してんの。自分で気付いてなかった?」

純粋に、彼は綺麗だった。艶めいた色香を放ち頬を染めいっそ苦しげに、そして貪欲に血を求める彼は美しく、目が離せなかった。そしてそんな美しい彼の表情を独り占めにしているあの人にどうしようもなく嫉妬した。

「ぬいぬいばっかりそらそら独占するなんてずるいじゃん。だからさ、」

肩を押さえ付けて左手首を彼の口に強引に押し付ける。緩く開いていた唇の中に肌が触れ、がちりと歯がぶつかった。

「あの時のイイ顔、俺にも見せて?」

本格的な危機を察知したのか彼は俺の下から這い出ようと抵抗を試みた。だけど既に俺は彼の上に乗っているし上背もあるから抵抗なんてあって無いようなものだ。今になって思う、俺背高くてよかった。

「ほら、そらそら早く。血好きなんでしょ?」
「っ……」
「そらそらのこと、皆に話しちゃってもいいの?」

口ではそう言ったけど彼のことを口外するつもりは毛頭ない。あまり好きではないが脅し文句、というやつだ。
ぼろりと、彼の瞳から涙が溢れる。流れ落ちる滴にちょっと驚いた。彼が泣いているのは初めて見る。血を吸う姿はこの上なく綺麗だと思ったけど、泣き顔もイイ。

「そらそら、」

優しく名前を呼びながらさらに強く手首を押し付けると、脅し文句が功を成したのか彼の唇が微かに開かれる。そしてつぷ、と歯が肌に刺さった。

「っ、……そらそら、やっぱ綺麗……」

俺の手首を抱えて必死に血を飲み干す姿は、やはり絶景だった。あの人は肩から吸わせていたからこんなにはっきりと彼の表情を見てはいないだろう。
間近で見る、彼の表情。俺しか知らない顔。
色気と時折漏れる鼻から抜けるような声、水音が体を熱くした。このまま犯したい。

「っは、……つばさ、君……」

唇が離れると傷口は唾液と血液で濡れていた。彼の口元を汚す血を拭いながら、

「……すんごい可愛い」

口付けを、した。





091226






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -