どこから出して来たのかそれとも元から持っていたのか。会長の部屋の真ん中には蜜柑が山のように盛られた菓子受けが鎮座するこたつが置いてあった。ピンク色のチェックの掛け布団(布団と呼ぶのかは分からないが)とオレンジ色のカーペットはお世辞にも会長に似合うとは言えず、部屋の中でも一際目立つ異色さを放っている。だが部屋の主はそんな事気にも留めていないのだろう、部屋を訪れた僕に向かっておー来たかと呑気な声を上げていた。寝転がりながらテレビを観ていた会長は立ち尽くす僕を手招いてこたつに当たるよう促す。着てきたコートとマフラーを脱いでから僕は控え目にお邪魔します、を呟きこたつに冷えた足を入れた。

「どうしたんですか、これ」
「やっぱ冬はこたつがないとなーと思って。用意してみた」

あったかくていいだろと会長は笑うが正直入手経路が気になる所。聞くのはなんとなく怖かったのでこたつにはもう触れず僕もテレビに視線を向けた。紅白が丁度盛り上がっている所らしく時計を見れば大晦日もあと数分だった。日付が変わる前に来れてよかった。

「……そうだ、お蕎麦買ってきましたけど食べません?」
「年越し蕎麦かぁ……腹も減ってきたし、食うか」

それならお湯をお借りしますと立ち上がりかけた所で突然会長に制される。会長は上体を起こすとテレビの電源を切って僕と真っ正面から向き合った。テレビという音源を失った室内には時計の針が刻む微かな音と除夜の鐘しか響かない。大晦日という年の瀬の夜の雰囲気を楽しむように、僕も会長もただ沈黙していた。
やがて時計の針が深夜十二時を告げる。

「あけましておめでとうございます」
「あぁ、おめでとう」

静かに迎えた新年。好きな人と新年の最初を過ごす喜び。昔ならばこんなに特別に感じる事はなかった年越しが、目の前の人の存在だけでかけがえのない物のように感じられた。いつもより優しさが多く含まれている笑顔で会長は僕に触れる。

「今年もよろしくな、颯斗」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」

ただの慣習としての意味しか持たなかったその言葉が今は純粋に嬉しかった。今年も彼の傍にいる事が許されるのだと、嬉しかった。

「今年だけじゃない」
「え……」
「来年も、再来年もその先も、ずっと一緒だ」
「会長……」
「会長じゃなくて名前で呼べよ。二人っきりなんだし」

伸ばされた腕が乱雑に髪を掻き混ぜるのをただ黙って受け入れた。今顔をあげて何か言えば想いと一緒に涙も出ていく気がしたから、こたつのチェック柄を見つめて堪える。颯斗と年越しできて良かったよ、そう笑って会長は湯を沸かしに立ち上がった。
満たされた今に未来の不安すら忘れそうになる。この先もずっと、年を越すのなら会長がいいと背中に告げると心底嬉しそうな笑顔を返されて、僕はようやく不格好ながらも自然な笑みを浮かべる事が出来た。





091231






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