「青空颯斗!」

あの春の日。名前を呼ばれた時から、

「お前は今日から生徒会メンバーだ!」

彼に、惹かれていたのかもしれない。




「あー……疲れた……」
「何言ってるんですか、まだ半分も終わってないじゃないですか」
「そんなこと言ってもよぉ……机に座ってるだけじゃ飽きる」
「断言しないで下さい。ただでさえ今日は人手が足りないというのに」

全く、と肩を落として机の上に広げてある書類の一つに目を落とした。見ての通り本日も生徒会の仕事は山積み。書記である彼女と会計である翼君は今日は顔を出していない。彼女は部活、翼君はまた不可思議な発明の最中に爆発を起こして空き教室を一つ吹っ飛ばしたらしい。そのお説教を先生から受けているらしく、僕は今現在やる気が低下している会長と生徒会室に二人きり。捗らない仕事にもこの気の滅入る状況にも溜め息をつきたい気分だ。

(よりにもよって会長と二人きりだなんて……)

最初は憧れだと完結していたこの自分の心は最近になってはっきりと名前を付けられるほどに顕著なものへとなってきた。ありえない、と否定する脳も会長の姿を視界に入れたとたん激しくなる鼓動の前では何の意味もない。
苦しく、なる。彼を見ていると、どうしようもなく。笑顔に、仕草に、声に。
触れたい、触れてもらいたい、近付きたい。仕事中でありながらそんな邪な願望が頭をもたげてきて恥ずかしくなった。慌て首を振り意識を目の前の書類に集中させようとする。最近ずっとこんな調子で自分が嫌になる。自分を嘲る意味を込めて溜め息をついた。

「颯斗、お前も疲れてるんじゃないのか?」
「……毎日毎日誰かさん達が問題を起こしてくれますからね。疲れもします」
「悪かったな。けど俺達に制裁を加えてる時のお前が一番楽しそうなんだが……?」
「気のせいでしょう」

会長の言葉にいつもの笑顔を返した。
さすがに鋭い、「疲れてるのか」と尋ねられた時はうっかり本音を溢しそうになった。見ていないようで見ている、がさつなようで細かい部分は見逃さない。それが、"会長"なのだろうと思うのだけれど。
今はただ厄介、だと思う。

「……やっぱり疲れてるだろ」

不意に影が降り見上げるといつの間に近寄ってきたのか、やけに真剣な顔の会長がソファに座る僕を見下ろしていた。近い距離に思わずどきりとし、女の子のような自分を理性が嘲笑うのを感じた。

「……そ、んなこと、ないですよ」
「嘘つくな。顔色は悪いし溜め息は多いしふらふらしてるしで説得力なんか少しもねぇぞ」

見ていないようで見ている、僕のことをそこまで気にかけてくれているのだという事実にうっすらとした喜びが生まれた。……たとえそれが、"会長"としての気遣いだとしても。

「今日はもういいから部屋に帰って休め。後は俺がやるから」
「でも……会長だけでは、」
「これは会長命令だ。帰らないっていうんなら無理にでも連れてくぞ」

有無を言わせぬその物言いに僕は言い返す事が出来ない。普段は子供のようなにはしゃいでいるのに、こういう時は年上であり長という役職に就いている人間なのだと思い知る。もしかしなくとも、この顔こそが会長の本来の顔なのだろう。

「……分かりました。お言葉に甘えて今日はもう失礼します」
「素直で結構。熱はないみたいだし、ゆっくり体休めろよ」

不意に。本当に唐突に。
ふわりと会長の掌が僕の額に触れた。それはただ熱を計るためだけの行為だったのだろうけど、突然の接触に驚いた体は素直に驚愕を露にして。

「颯、斗……?」
「し、失礼します!」

鞄を掴み急いで生徒会室から逃げ出した。直前に見た会長の顔が頭から離れない。赤くなった僕の顔は、きっと会長にはっきりと見られてしまった。

(好きだと……言えればまだ楽なのに)

廊下をまだ冷め赤い顔で走りながら、明日どんな顔で彼に会えばいいのだろうかと、途方もないことを考えた。




(脈あり、なのかなありゃ……)

一人になった生徒会室で、"会長"は飛び出していった副会長のことを考える。少し触れた途端熱を出したかのように赤面した彼の態度は、どう考えても――――

「……あぁ、くそ!もっとちゃんと触っとけばよかったな」

彼は気付いていないだろう、自分が彼に伸ばした腕が緊張で微かに汗ばんでいたことを、自分が彼をどう思っているのかも。

(触りたい、って毎日俺が思ってると知ったら、あいつどんな顔するだろうな)

とりあえず副会長に宣言通り仕事を片付けようと、先程まで彼が触れていた書類を手に取った。





091227






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